日本企業が対応すべき「European Accessibility Act(EAA)」の影響とは:ソフトウェア、EC、電子機器業界の視点から
2025年6月28日、「European Accessibility Act(EAA/欧州アクセシビリティ法)」がEU加盟国で施行されます。この法律は、障害のある人々や高齢者を含むすべての人がデジタル製品やサービスに平等にアクセスできる社会の実現を目指す重要な規制です。EU域内に商品やサービスを提供している日本企業にとっても、この法律は無関係ではありません。
この記事では、特に影響を受けやすい「ソフトウェア開発企業」「電子商取引事業者」「電子機器メーカー」に焦点を当て、日本企業が理解すべきEAAの要点と対応戦略を解説します。
対象読者と本記事の活用ポイント
本記事は以下のような企業や担当者に向けて構成しています:
- EU域内でソフトウェア・アプリケーションを提供している開発企業
- 欧州向けにオンラインストアやECプラットフォームを展開している事業者
- 電子製品を輸出している製造メーカーやデバイス開発企業
- 法務、マーケティング、商品企画など、製品・サービス提供に関わる部門
- ESG・CSRを推進するブランディング・広報部門
EAAとは何か?その背景と目的
EAAは、EU加盟国におけるアクセシビリティ基準のばらつきを是正し、共通化することを目的とした法規制です。主に以下の要素を含みます:
- アクセシビリティを義務付ける対象製品・サービスの定義
- 対象企業に対する設計・製造・提供方法の規定
- 消費者への明示義務(CEマークなど)
- 罰則および市場からの排除措置
この法律は、障害のある方や高齢者だけでなく、モバイル端末利用者、外国語話者、一時的な身体的制約のある人など、すべてのユーザーに恩恵を与えるものです。
日本企業への具体的な影響
1. ソフトウェア開発企業
対象となる主な製品:
- オンラインバンキングアプリ
- チケット予約アプリ
- eリーダー、教育ソフトウェア
- ビジネス向けクラウドツール
求められる対応:
- WCAG 2.1(AAレベル)準拠のUI設計
- スクリーンリーダー、音声入力、拡大表示など支援技術への互換性確保
- モバイル・PC問わずアクセシブルなナビゲーション
懸念されるリスク:
- EU域内でのアプリ配信停止、制裁金、ブランド毀損
2. 電子商取引(EC)事業者
対象となる主なサービス:
- B2C/B2B向けオンラインストア
- デジタルコンテンツ配信(動画・音楽)
- マーケットプレイス型プラットフォーム
求められる対応:
- 決済ページ、検索機能、カート機能のアクセシビリティ
- 字幕付き動画、商品画像のaltテキスト
- 音声読み上げ対応の顧客サポートチャネル
見逃しがちな注意点:
- デジタル契約や同意画面の操作性も対象
- B2Bサービスであってもユーザーインタフェースが関与する場合は対応義務あり
3. 電子機器メーカー
対象となる主な製品:
- スマートフォン、タブレット
- ATM、キオスク端末、POSシステム
- デジタルテレビ、メディアプレイヤー
- 電子書籍端末
求められる対応:
- ユーザー補助機能(テキスト読み上げ、ボタンサイズ調整、音声出力など)の実装
- 取扱説明書・保証情報への代替手段提供(点字、音声、オンライン説明など)
- CEマーク取得におけるアクセシビリティ要件の満足
非対応の影響:
- 販売停止命令、製品リコール、法的措置、流通停止
企業が今から取り組むべき対応ステップ
-
ギャップ分析の実施
EU市場における自社製品・サービスのEAA対象有無と、アクセシビリティの現状評価 -
設計・開発体制の見直し
アクセシビリティ要件を最初から盛り込む「シフトレフト」アプローチの導入 -
テストと検証の強化
ツールだけでなく、支援技術ユーザーによる実機検証や外部監査の活用 -
関連法規との整合性確保
CEマーク、RoHS、REACH等の他法令との統合対応を確認 -
社内教育と継続的改善
デザイナー、開発者、マーケター、CS担当者に対するアクセシビリティ研修を定期実施
まとめ:EAAは脅威ではなく「競争力の武器」
EAAは、日本企業にとって単なる規制ではなく、グローバル市場での信頼性を高め、ユーザーとの接点を広げる大きな機会です。早期に対応することで、競合他社に先んじたESG施策、インクルーシブデザイン、そしてヨーロッパ市場でのブランド価値向上を実現できます。
要点のおさらい:
- EAAはEU市場で製品・サービスを提供する全企業に影響
- 特にソフトウェア、EC、電子機器分野の企業が対象
- WCAG 2.1 AAやCEマークを含む技術的・法的要件に注意
- 対応には体制・設計・教育・検証の総合的アプローチが不可欠
- アクセシビリティは競争力強化とリスク回避を両立する戦略的資産
持続可能で誰にとっても使いやすいプロダクトの創出は、法令遵守にとどまらず、未来志向のビジネスへの一歩です。