【徹底解説】2025年10月20日のAWS障害:影響範囲・時系列(日本時間)・原因の見立てと、再発時に止めないためのベストプラクティス【保存版】
まずは要点(1分サマリー)
- 発生日時(日本時間):2025年10月20日(月)15:40頃〜19:40頃を中心に、米国東部(US-EAST-1, 北バージニア)の障害が波及。多くのサービスが3〜4時間程度、応答不能や高エラー率に。
- 影響:Snapchat、Fortnite、Roblox、Signal、Coinbase、Venmo、Chime、Robinhood、Canva、Perplexity、さらにAmazon Alexa/Prime Video/Ring、英国ではLloyds/BoS/HMRCなど公共・金融・通信にも波及。
- AWS公式の説明(時点情報):US-EAST-1で複数サービスのネットワーク接続障害とAPIエラー。復旧の兆候→段階回復→一部媒体は**「完全緩和」を報じる一方、一部ユーザーに残渣という報告も同時刻に存在。根本原因は未確定(一部メディアがDynamoDB関連のIT障害**と言及)。
- 教訓:単一リージョン(特にUS-EAST-1)集中は依然として脆弱。アーキテクチャ、データ、ネットワーク、運用の4層で**「マルチAZ→クロスリージョン→マルチクラウド」**の階段設計が有効。DynamoDB Global Tables/Aurora Global Database/S3 CRR/CloudFrontマルチオリジン/Route 53ヘルスチェックなど「準備しておくべき具体手当て」を後述します。
- 対象読者:SRE/情シス/プロダクト責任者/法務・企画/経営。RTO/RPOの見直し、障害時の顧客コミュニケーション台本、**監査証跡(来歴)**の観点まで、そのまま転用できる雛形を添えました。
誰に役立つ?(想定読者と得られる価値)
本稿は、SaaS・EC・金融・メディア・公共のご担当者に向けて、10月20日のAWS障害の実像を公式・大手報道の突合で整理し、再発時に止めないための設計と運用の型を、企業規模別に具体的な手順で提示します。非エンジニアの方でも読み進められるよう、専門語には短い注釈を付け、最後にチェックリストを用意しています。**アクセシビリティ評価は“高”**です。
何が起きたのか:時系列(日本時間JST)
- 15:40ごろ:米東部時間2:40am ET相当で障害が顕在化。AWSのダッシュボードは**北バージニア(US-EAST-1)で“オペレーショナルイシュー”**を示し、広域にエラー率上昇/レイテンシ増大。
- 16:11:米東部3:11am ET時点の報道で、Alexa、Fortnite、Snapchatなど人気サービスが応答不能。
- 18:14〜18:29:AWSの更新では**「US-EAST-1で複数サービスがネットワーク接続問題・APIエラー」、「初期の回復傾向」**を示す。
- 18:27:**“有意な回復の兆候”**が報じられる。
- 19:35:Epic(Fortnite)やPerplexityなど、サービス側で概ね復旧宣言。ただし一部AWSオペレーションは継続影響が残るとする報も同時。
- 以降:ニュース系ライブブログで**「Fully mitigated(完全緩和)」**の文言を拾う一方、一部ユーザーで断続的影響の報告。AWSは詳細原因の確定公表に至らず。
補足:複数の大手紙・専門メディアは発生源をUS-EAST-1と一致して伝え、影響は地域起点でも実質グローバルに波及したと総括しています。
影響範囲:どこが、どう止まったのか
- コンシューマ向け大規模サービス:Snapchat/Signal/Fortnite/Robloxほかゲーム・SNSが広く障害。Alexa/Prime Video/RingなどAmazon自社も影響を受けました。
- 金融・決済:Coinbase/Robinhood/Venmo/Chimeで接続障害や遅延の報。英国のLloyds/Bank of Scotland/HMRC(税務)など公共・金融サイトにも波及。
- 創作・AI/ツール系:Canva、Perplexityなども停止・劣化を公表。教育系ではCanvas LMSの停止連絡が大学ITから発出。
- 広がりの見立て:AP、Reuters、The Guardian、The Verge等の同時多発報道が示すように、B2C/B2B/公共が同時につまずく“単一ノード依存”の構造リスクが露呈しました。
原因は何か:確定情報と未確定情報の線引き
- 確定していること:AWSは**「US-EAST-1で複数サービスにネットワーク接続問題/APIエラー」**と説明し、段階的な復旧をアナウンス。サイバー攻撃の公的認定はなし。公式の恒久原因(RCA)文書は未公表です(本稿執筆時点)。
- 報道での指摘:“データベース(DynamoDB)関連のIT障害”と示唆する記事もあるものの、AWSの公式確証は未提示。「米東のデータセンター障害→世界に波及」という再発パターンが指摘されています。
結論:現時点でRCAは未確定。設計・運用の見直しは、「ネットワーク/制御プレーンのリージョン依存」「単一リージョンDB依存」「上流SaaSの集中」という構造的リスクを前提に行うのが賢明です。
事業への実務的インパクト
- 収益直撃:EC・サブスク・広告配信は数時間の停止=即損失。決済系はチャージの取りこぼしや重複課金の危険が高まります。
- ブランド・規制:停止報告/遅延告知のスピードが信頼維持の鍵。金融・公共では**業務継続計画(BCP)**上の説明責任が発生します。
- 開発・運用:単一リージョン縛りのシステムは計画停止(メンテ)以外の“突発停止”に極端に脆いと再確認。US-EAST-1集中はエンベロープ(地理・規制)上の制約がなければ段階分散が得策です。
どう防ぐ?——階段式ベストプラクティス(4層×3段)
1) アーキテクチャ層:単一リージョン依存からの脱却
- 段1:マルチAZ(同一リージョン)
- ALB/NLBのゾーン拡張、EC2 Auto Scaling(複数AZ)、RDS Multi-AZを基本形に。ステートレス化とセッション外部化(ElastiCache/S3)で急なAZ障害に耐える。
- 段2:クロスリージョンActive-Standby
- Route 53ヘルスチェック+フェイルオーバー、S3 CRR(クロスリージョンレプリケーション)、ECR/Secretsの二重化。IaC(Terraform/CDK)で環境のカーボンコピーを保つ。
- 段3:クロスリージョンActive-Active/マルチクラウド
- CloudFrontのマルチオリジン+フェイルオーバー、アプリ層はIdempotent+冪等APIでリージョン間の“二重実行”を吸収。DNSベース/Anycastの手動切替も最終手段として準備。
2) データ層:書き込みの“唯一性”が最大の壁
- キャッシュ/読み取りは**グローバル分散(CloudFront/Global Accelerator)**で容易ですが、書き込み整合が肝です。
- DynamoDB Global Tables:衝突解決(最後の書き込み勝ち)や項目設計を前提に世界多活性。US-EAST-1依存の単一テーブルは避け、隣接リージョンへ広げる。
- Aurora Global Database:セカンダリの昇格RTOが秒〜分。書込み系の優先リージョンを定めつつ、フェイルオーバー演習を四半期で。
- S3:CRR+バージョニング+オブジェクトロックでランサム/人的誤操作も兼ねてガード。
3) ネットワーク/エッジ層:入口を多重化
- CloudFront:Origin Groupで**プライマリ(US-EAST-1)→セカンダリ(別リージョン)**の自動切替。
- Route 53:ヘルスチェック+加重/フェイルオーバー/レイテンシールーティングの組合せ。ダウン時のTTL短縮をプレイブックに明記。
- PrivateLink/Transit Gateway:内部サービス連鎖の単一点崩壊を回避。
4) アプリ/運用層:“落ちる前提”の作法
- アプリ設計:サーキットブレーカ/指数バックオフ/永続キュー(SQS/SNS/Kinesis)で一時的断絶を吸収。リトライは冪等Idに必ず紐付け。
- IR(インシデントレスポンス):30分刻みの外部告知テンプレ、ステータスページ(別クラウド起動)、SOE(Standard Operating Environment)で代替VPCを即席起動。
- 演習:ゲームデイ(Chaos Engineering)でリージョン全断・DynamoDB整合衝突・DNS切替を四半期ごとに模擬。
参考:今回のAWS公式更新は**「US-EAST-1のネットワーク/API」を起点と示唆。“制御プレーン/データプレーンのリージョン依存”**を緩める設計が、本質的な耐障害性を押し上げます。
規模別サンプル構成(雛形)
A. スタートアップ(年商〜数十億円)
- アプリ:ECS/FargateまたはLambda(ステートレス)。
- データ:DynamoDB(Global Tables 2リージョン)+S3 CRR、Aurora Serverless v2(Multi-AZ)。
- フロント:CloudFront(プライマリ/セカンダリOrigin)+Route 53 FO。
- 運用:Statuspageを別クラウドでホスティング、DNS TTL=60s、毎月のフェイルオーバー演習。
B. 成長企業(年商数百億〜)
- アプリ:EKS×2リージョンのActive-Active、Argo Rolloutsで地域ごとCanary。
- データ:Aurora Global Database(書込プライマリはAPN1/USE1のいずれか)、Redis Global DataStore。
- 運用:ハイブリッド監視(別クラウドから外形監視)、回線多重、BCP通信(衛星回線)。
C. 規制産業・公共
- マルチクラウド:基幹はクラウドA、対外窓口はクラウドB。C2PA/監査ログは両系統に二重保存。
- 決済・個人情報:鍵管理(KMS×HSM間ピン留め)とDLP、RTO/RPOを正式SLA化。
障害当日の対応テンプレ(そのまま使える)
- 3分で出す一次声明(外部)
- 「現在、当社の一部サービスで高いエラー率を確認しています。AWS US-EAST-1起因の可能性が高く、段階的に回復中です。重要データの消失は確認されていません。」
- Slack/Teamsへの即時連絡(社内)
- 影響範囲、暫定回避(迂回DNS/キュー化)、次報予定。
- 実行
- Route 53フェイルオーバー→CloudFrontオリジン切替→キューの山崩し。
- 2時間以内
- RC(回復クルー)とCC(コミュニケーションクルー)の分離。決済リトライ方針と返金SOPの承認。
- 翌営業日
- 事後報告(お客様向け簡易版+技術詳細版)、RCA取得までの暫定対策、演習計画の更新。
よくある落とし穴(今回の障害で露呈)
- “US-EAST-1は安い+実績豊富”ゆえの過密
→ 価格・レイテンシだけでリージョン選定しがち。近接2リージョン併用を前提に。 - DNS切替の練度不足
→ TTLが長すぎる/ヘルスチェックが曖昧/WAF連携忘れ。1時間に1回は手動演習を。 - データ多活性の衝突設計が未整理
→ Idempotency-Key/バージョン管理を実装しないと**“二重書き込み”**でアプリが止まる。
監視と可観測性:なにを見ると早く気づけるか
- ユーザー指標:成功率(SLI)、p95レイテンシ、エラーバジェットの落ち方。
- 依存先:VPCエンドポイントの5xx、DynamoDBの限界(WCU/RCU)、RDSフェイルオーバー遅延。
- 外形監視:別クラウドの監視点からリージョン別にHTTP/TLS合否。
- ニュース連動:AWS Health Dashboard/主要メディアのライブ更新を運用モニタに取り込み、IRチャンネルへ自動POST。
まとめ(次に備える3点)
- 単一リージョン脱却:マルチAZ→クロスリージョン→必要ならマルチクラウドへ“階段”で。
- データ設計の現実解:DynamoDB Global Tables/Aurora Globalで二重実行を受け止める。Idempotencyは“必修”。
- 人と手順:30分ごとの告知テンプレ/DNS切替演習/返金SOPを書いて、回して、磨く。
参考リンク(一次情報・主要メディア/ダッシュボード)
- The Verge:Fortnite、Alexa、Snapchatなどを巻き込んだ大規模障害のまとめ(10/20)
- Reuters:金融・通信・大手サイトへの波及と“世界的障害”の位置づけ
- The Guardian:1,000超のプラットフォームに影響、DynamoDB関連の指摘と集中リスク
- TechRadar(ライブ):AWSダッシュボードの“北バージニア operational issue/回復兆候”
- Newsweek(ライブ):AWS「Fully mitigated」言及のアップデート
- AWS Health Status(グローバル):サービス別インシデント更新(当日ログ)
- AP通信(WTOP転載):大規模障害の全体像(10/20 9:01AM)
- Guardian Business Live:AWSの公式更新引用(APIエラー/接続問題)
- Al Jazeera(ライブ):世界的障害の続報
- Western Washington University:Canvas停止の周知(AWS起因)