スターバックスはなぜ世界で店舗を減らし、日本は“例外的に伸びる”のか——背景の真相と、これからカフェ新規参入する人への実務アドバイス
はじめに(要点サマリー)
- 世界では「選択と集中」が進行中。スターバックスは2025年に北米の不採算店を中心に閉店・再設計を発表し、全体店舗数は一時的に約1%減(開閉店のネットで)という“間引き”モードに入りました。背景には米国の来店鈍化・高価格疲れ・中国の回復遅れなどがあります。
- 日本は例外的に拡大。2025年3月末で2,011店舗、会社概要では2,077店舗と明記され、堅調な出店が続いています。ご当地・季節商品やティー特化フォーマットなどローカライズ戦略が着実に機能。価格は都市部で位置連動型に見直しつつも、ブランド体験の需要が高いのが特徴です。
- これから参入するカフェ起業家は、“大手と同じ土俵”を避ける設計が鍵。スピード/専門性/物語性/デジタルの4本柱で勝ち筋を作り、小さく始めて早く回す。本文ではサンプルP/L・初期投資の目安・**代替モデル(キオスク/移動販売/サブスク/RTD)**まで丁寧に解説します。
この記事が特に役立つ方(具体像)
- これからカフェを開く個人・小規模事業者:初期投資を抑えつつ、競合と違う土俵で戦いたい方。
- 既存飲食店の第2業態検討者:昼アイドルタイムの活用や、テイクアウト/デリバリーの伸長を狙う方。
- デベロッパー/不動産管理:テナントミックスで**“体験価値の高いカフェ”**を誘致したい方。
- 投資家/金融機関:単位経済(Unit Economics)が健全な小規模カフェの与信・評価軸を把握したい方。
1. まず事実から——「店舗が減っている」のはなぜ起きている?
1-1. 北米での“いったん間引き”
2025年9月、スターバックスは北米を中心に不採算店の閉店と約900名の非小売部門の人員削減、約10億ドル規模の構造改革を発表。店舗数は期中に開店もあるためネットで約1%減と述べています。これは“撤退”ではなく再設計(リデザイン)と店舗ポートフォリオの最適化の一環です。
1-2. 直近の需要環境
2024年以降、米国では物価上昇の長期化にともない高単価ドリンク離れ・来店頻度の鈍化が顕在化。中国では回復の遅れや競合激化、さらに**一部地域の地政学的要因(中東の不買運動の影響)**も逆風となり、既存店売上の伸び悩みが続いた四半期がありました。
1-3. 「減らす」のではなく「作り直す」
会社側は、“待ち時間の短縮”“温かみのある空間”“管理のスリム化”を掲げ、1,000店舗超の改装・リフトアップも同時に進めると説明。つまり“減らす”と“磨く”を同時に行うフェーズに入っています。
まとめると——世界的に“粗利の薄い立地を閉じる→強い立地と新フォーマットに投資”という、外食チェーンが景気の踊り場でよく取る教科書どおりの再配分が起きています。
2. 日本が“例外的に伸びる”理由
2-1. 店舗数は増勢を維持
2025年3月末で2,011店舗、会社概要では2,077店舗と公表され、日本のネットワークはなお増加基調です。ローカル需要が底堅く、“第三の場所(Third Place)”としての利用が定着しているのが大きいですね。
2-2. ローカライズ(“日本ならでは”の作り込み)
- ティー需要への適応:「スターバックス ティー & カフェ」というティー特化フォーマットを拡大。コーヒー偏重では拾い切れない日本のティー文化を取り込みました。
- 季節・地域の物語:サクラや地域限定の一品など、“限定体験”の設計が上手。来店動機が「飲料そのもの」だけでなく、「季節の儀式」にまで高まっています。
- 景観への溶け込み:京都の町家店舗のように文化資産と調和する出店で、**訪日・国内観光の“目的地化”**にも成功。
2-3. 価格の設計を“地勢”に合わせた
2025年、立地連動の価格改定を導入。コスト構造が重い都市部で値付けを細やかに調整し、収益性を守る打ち手をとりました。
2-4. 市場の構造要因
日本のコーヒー市場は成熟ながら底堅い成長が見込まれ、スペシャルティやティー需要も拡大。RTD(缶・チルド)やコンビニコーヒーという強力な代替もありますが、**「体験としての一杯」**のニーズが並走しています。
つまり日本は、“日常のご褒美としての来店動機”を丁寧に積み上げられていること、そしてコーヒーとティーの両取りができていることが例外的な強さの源泉です。
3. 世界 vs 日本:数字で読む“今”
- 北米の店舗最適化:不採算店の閉店+1,000店超の改装。ネットで約1%減の規模感。
- 24〜25年の需要鈍化要因:価格上昇に伴う内食シフト、中国の回復鈍化、地政学的影響。
- 足元の業績トレンド:2025年通期・第4四半期の公表では、既存店売上がわずかにマイナス〜横ばいの局面が残る一方、通期売上自体は増収。構造改革の費用負担と改装投資をこなしつつ再成長を狙う構図です。
- 日本の店舗網:2,000店超に到達し、新フォーマットや季節提案が来店を底上げ。都市部は価格をきめ細かく調整。
4. 「なぜ店舗が減るのか」をもう少し深掘り(実務の視点)
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単位経済の最適化
家賃・人件費・光熱費が上がる環境では、客数×客単価×粗利率の三積が規定値を割る立地を閉じて再投資するのが合理的。スターバックスは**“待ち時間短縮と空間の再定義”**に予算を振り直しています。 -
商品構成の整理
調理の複雑性が高い商品はピーク時の行列・不満につながるため、メニューのスリム化や季節商品の設計見直しが進行。米国では品目の整理が段階的に報じられています。 -
地域ポートフォリオの組み替え
中国の競争や一部地域のボイコットなど**“国・地域のリスク”**も考慮し、投資の比重を時間軸で調整。
端的に言うと、「数の拡大」から「質の磨き込み」へ。その過程で一時的な純減が起きている、という見立てが実務的です。
5. これからカフェに新規参入する方へ——勝ち筋の設計図
5-1. 「同じ土俵」を避ける4本柱
- スピード:モバイル先払+受取棚、厨房動線の短縮、ベーシックなメニューを“速くうまく”。
- 専門性:一芸特化(例:シングルオリジン/ラテアート/ハンドドリップ/焙煎所併設/和紅茶・抹茶)。#Matcha/ #Hojichaトレンドへの対応は、若年層に効きやすい。
- 物語性:地域食材・器・内装で**“行く理由”を作る。小さくても“目的地”**になれば価格弾力性が生まれます。
- デジタル:会員・事前決済・サブスクを最初から。客数が少なくてもLTVで勝てます。
5-2. 立地とフォーマットの選び方(サンプル)
- A:駅ナカ/オフィス導線(8〜15坪)
目標は**“30秒で渡せる3品”**(ドリップ/ラテ/紅茶)。回転率で勝つ。 - B:住宅地・学校近く(15〜25坪)
午後のおやつ訴求(焼き菓子/プリン)とテイクアウト窓。家族連れの週末回遊を狙う。 - C:観光地/名所近辺(10〜20坪)
写真映え×地域素材で目的地化。行列を捌ける順路設計が肝。 - D:マイクロ・キオスク(3〜6坪)
コーヒースタンドや抹茶ラボ。人件費1.5人運用を想定し、家賃を売上の8〜10%以内へ。
5-3. サンプルP/L(10〜15坪・テイクアウト強め)
- 前提:平均客単価 700円、平日220杯・休日280杯、月商 約500〜550万円。
- 粗利率:飲料70%・フード55%ミックスで総粗利 約63%。
- 固定費:家賃35万円、人件費(延べ150〜170時間/週)約150万円、光熱通信20万円、減価償却/雑費15万円。
- 営業利益イメージ:月70〜90万円(荒天・季節変動を除く)。
※上記は設計例です。立地・人件費・歩留まりで大きく変動します。開業前に**“ピーク時の秒単位動線”**まで検証してくださいね。
6. メニュー設計:速度×体験×原価の三立
- 三段攻め:「即答(すぐ出る定番)」「愉しみ(季節/限定)」「こだわり(ハンドドリップ/シングル)」。
- ティー強化:日本はティー需要が強い。抹茶・ほうじ茶・和紅茶は差別化の速攻カード。
- 原価の見える化:シロップ/トッピングの標準スプーン化、アイス・ホット兼用の仕込みでロス最小。
- “写真一枚で伝わる”設計:季節一品は光と背景まで意識して撮影。SNS流入が無料集客になります。
7. オペレーション:最初から“並ばせない”つくり
- バックヤード動線:20秒でカップ/ミルク/具材に手が届くレイアウト。
- 注文の分散:モバイルオーダー優先レーン、受取棚、予約枠(5分単位)。
- ピークの分解:朝・昼・夕でメニューの当て込みを変える(例:朝は焼き立て、昼は軽食、夕はスイーツ)。
- “混雑翻訳”:お待たせ時は先にボトル水の無償提供、進捗の可視化で体感時間を縮めます。
8. マーケティング:常連を“会員”に育てる
- 会員化の第一歩:LINE/アプリで購入履歴→好み→レコメンドを簡単に。
- 季節の儀式化:サクラ/新茶/ハロウィン/ホリデーなど、日本は季節のきっかけが豊富。写真・ミニストーリーとセットで発信。
- 地域の共創:地元の器/菓子/果物とコラボするとニュース性が生まれます。
- 価格運用:立地連動・時間帯連動は日本市場でも通用。需要の山に合わせて“少しだけ賢い値付け”を。
9. 参入のメリット/デメリット(代替案も)
メリット
- 比較的少額の投資でも始められる(キオスク/ポップアップ/移動販売)。
- “地域に根ざす”ブランド力は長く残る。
- ティー・抹茶・焼き菓子など多様な拡張余地がある。
デメリット/リスク
- 人件費・原材料・光熱費の上昇で粗利の取り方がシビア。
- 行列=機会損失になりやすい(秒単位設計が必須)。
- 天候・季節変動が大きい。デリバリー/RTDで平準化を。
代替モデル(“店舗=唯一の解”ではない)
- マイクロ・キオスク(3〜6坪):駅前・オフィス1階で朝と昼を取り切る。
- 移動販売(トラック/カート):イベント/マルシェに寄せて可変費化。
- ロースタリー&サブスク:少席・高単価、豆売り/定期便で売上の安定。
- RTD(瓶/缶)× EC/卸:“店に行かず買える”ラインで販路分散。
- 共同ブランド出店:書店/花屋/雑貨と二毛作で“目的地化”。
10. 失敗しにくい“初期投資”の指針
- 内装は“音と光”優先:機器に偏らず、残響を減らす素材と影にならない照明に投資。
- 設備は“洗い物”が肝:食洗・シンクの動線が1m伸びるだけで1日数分のロス。
- メニューは10品から:TOP3の提供秒数を短縮できたら徐々に追加。
- POS/アプリは最初から:会員化・先払が現金差異や列を減らします。
11. よくある質問(Q&A)
Q. 大手が店舗を閉めるのに、個人が今参入しても大丈夫?
A. “大手の弱点=局地対応の難しさ”です。小さく速くで勝負すれば十分チャンスがあります。大手がメニュー整理や改装に集中する今は、ニッチの取りどきでもあります。
Q. 立地はどこが安全?
A. 家賃=月売上の8〜10%に収まる地点を第一に。次に目的来店が見込める目的地要素(書店・公園・文化施設)に寄せるのがコツです。
Q. 抹茶などティー強化は本当に効く?
A. 世界的にブームで、原料面の課題はあるもののメニューの差別化弾になります。品質確保と仕入先の多様化を前提に取り入れてください。
Q. 価格はどう決める?
A. 日本では立地連動の考え方が広がっています。コストと需要に応じた微調整を最初から想定しましょう。
12. 「世界は減る、日本は伸びる」の先にあるもの(見通し)
- 世界:当面は**“磨く→伸ばす”の二段階**。閉店は一時的で、改装・新フォーマットを経て回復局面が来る見込みです。
- 日本:2,000店超の面を活かしつつ、ティー特化・季節体験・観光融合で深さを追求。都市部の価格設計により収益のブレを抑える運用が続くはずです。
13. まとめ——カフェ参入は「小さく、速く、違う土俵で」
- 世界のスターバックスは、“数より質”へ。北米の不採算店を間引き、空間とオペの再設計で立て直し中。
- 日本は**ローカライズ(ティー/季節/景観)**が当たり、2,000店超の規模でも需要を掘り起こせています。
- 新規参入は、スピード×専門性×物語×デジタルで同質化の罠を避け、キオスク/移動販売/RTDなど代替モデルも組み合わせてリスクを刻む。
- まずは90日:秒単位の動線設計→ミニ・メニュー10品→会員化→季節一品の写真運用。この順で積み上げれば、“行列が喜びに変わる”体験を、あなたのサイズでも実現できます。やさしく、でも確実に。
主要出典(一次情報・有力媒体を中心に抜粋)
- 構造改革・閉店/改装・規模感:Reuters、Starbucks公式発表(Message from Brian)
- 24〜25年の需要環境(米国/中国/中東):Reuters 決算報道・見通し修正記事
- 通期/四半期の業績サマリー:Starbucks IR(FY2025 Q4 release)
- 日本の店舗数・進出状況:スターバックス コーヒー ジャパン「沿革」「会社概要」
- 日本の価格運用(立地連動):The Straits Times / Japan Today
- ティー特化/季節施策/景観適応:Starbucks Stories Japan(Tea & Café / SAKURA)、Condé Nast Traveler(京都・町家店)
- 抹茶・ティートレンド:Financial Times(#MatchaTok)ほか
