2025年11月18日・世界の主要ニュース総まとめ
ガザ安保理決議、ウクライナ情勢、COP30、金融市場、国際機関の揺らぎ
まずは「今日の世界」を3分でざっくり
- 国連安保理が米国(トランプ政権)主導のガザ和平案を支持する決議を採択し、ガザ統治と治安を担う「ガザ平和評議会」と国際安定化部隊(ISF)を創設へ
- その一方で、イスラエルはレバノン南部シドンを空爆し13人が死亡、停戦後も「戦火の残り火」が地域に広がる懸念が強まる
- ロシアは19日に予定されるトルコ・イスタンブールでのウクライナ協議への不参加を表明、同時期にポーランドの対ウクライナ鉄道で前例のない「サボタージュ」事件
- 世界の株式市場はAI関連の過熱感と地政学リスクからリスクオフ、ビットコインも年初来上昇分をほぼ失う下落、原油価格はロシア制裁とFRB議長人事観測で上昇
- ブラジル・ベレンで開かれているCOP30(国連気候変動会議)では、80超の国が「化石燃料フェーズアウトのロードマップ」を要求し、交渉が政治決戦の段階へ
- 世界保健機関(WHO)は、米国の脱退で予算が細り、2026年半ばまでに職員の約4分の1・2,300人超を削減へ
- 米国内ではトランプ政権が教育省の機能を他省庁へ移管し「事実上の解体」に踏み出し、G20南アフリカサミットにはアメリカの「空席」が象徴的に並ぶ見通し
このまとめが役立つ人・読み方のご提案
きょうのニュースまとめは、次のような方に特に役立つ内容を意識して構成しています。
- 海外情勢の変化が自社ビジネスにどう響くかを把握したい企業経営者・企画部・海外事業担当の方
- 為替・株式・コモディティなど市場の大きな流れを、ニュースと結びつけて理解したい個人投資家・アナリストの方
- 国際政治・安全保障・気候変動・グローバルヘルスを学ぶ学生や、教育現場で最新事例を扱いたい教員の方
- SDGsやESG、脱炭素などの文脈で、自社のサステナビリティ戦略やリスク評価を行う担当者の方
記事全体は「インパクトの大きい順」に並べた逆三角形型(冒頭ほど重要性が高い)になっています。
時間がない方は、
- 「第1章 ガザ・中東情勢」
- 「第3章 金融市場」
だけを読めば、きょうの世界の「安全保障+経済」の大枠はつかめます。
余裕があれば、その後にCOP30(第4章)、WHOと教育省問題(第5章)、G20(第6章)を読むと、「世界のルール作り」がどこへ向かっているのかが見えてきますね。
第1章 ガザ:安保理が米国主導の和平案を承認、しかし「不安定な平和」の始まり
1-1. 国連安保理決議の中身
国連安全保障理事会は17日、アメリカが起草したガザ和平決議を採択しました。決議は、トランプ大統領が提示した20項目の和平案を基礎とし、ガザに「ガザ平和評議会(Board of Peace)」を設置し、国際安定化部隊(International Stabilization Force:ISF)を派遣する内容を含みます。
賛成は15理事国中13か国で、中国とロシアは棄権。決議文には「条件付きながらパレスチナ国家樹立への道筋」が盛り込まれた一方で、
- パレスチナ側の統治主体をどうするか
- ISFの構成国と権限をどう定めるか
- イスラエルの安全保障要求とガザ住民の権利をどう両立させるか
といった核心部分はあいまいなままです。ロシアや中国は「パレスチナ当事者の関与が不十分で、国際監督統治の色彩が強い」と批判しています。
パレスチナ自治政府は決議を「自決権と独立国家への権利を確認するもの」として歓迎する一方、ガザのイスラム組織ハマスは「強制的な国際後見」として強く反発しており、政治的コンセンサスには程遠い状況です。
1-2. イスラエルの攻撃継続とレバノン・シドン空爆
決議採択後も、武力の「残響」は続いています。イスラエル軍はレバノン南部の都市シドン近郊、パレスチナ難民キャンプ・アイン・アルヒルウェを空爆し、13人が死亡、多数が負傷したとレバノン保健省が発表しました。イスラエル側は「ハマスの訓練施設を攻撃した」と説明しましたが、ハマスは「市民が利用するスポーツ施設が標的にされた」と主張しています。
ガザ本体では停戦が続きつつも、イスラエルとレバノン領内の武装勢力(ヒズボラや一部ハマス系組織)との間で散発的な衝突が起きており、「停戦だが平和ではない」非常に不安定な状況が続いています。
イスラエルのネタニヤフ首相は、安保理決議の翌日、「地域からハマスを一掃すべきだ」と発言し、ハマスの完全排除を改めて訴えました。決議はハマス構成員に対する条件付き恩赦も含みますが、イスラエル側と米国側のスタンスの違いが透けて見えます。
1-3. 経済への影響:エネルギー・再建ビジネス・リスクマネー
今回の決議と中東情勢の変化は、次のような経済的影響を伴います。
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エネルギー価格と輸送保険料
- ガザやレバノンでの緊張が続くと、イスラエル沿岸や東地中海の海上輸送リスクが意識されます。
- ただし、現時点ではホルムズ海峡や主要産油国の供給に直接の支障は出ていないため、原油価格は「地政学プレミアム」としては限定的な上昇にとどまっています。
- 船舶の戦争保険料は中東航路でじわりと上昇しており、海運コストに反映されやすい局面です。
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ガザ再建・インフラ需要
- 国際安定化部隊と「平和評議会」の下で、電力・水・道路・住宅などの再建投資が数十億ドル規模で見込まれます。
- 建設機械、セメント、インフラ関連コンサル、通信インフラなどの企業にとっては中長期のビジネス機会ですが、治安リスクと政治リスクが高く、保険・保証・国際機関の関与が不可欠です。
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リスク資産への影響
- ガザ決議は「紛争拡大を抑える材料」として一時的に市場心理を安定させる要素もありますが、決議の実行可能性に対する不信感から、「根本的なリスク低下」とは見なされていません。
- 投資家の視点では、中東関連リスクは「しばらくくすぶる地政学リスク」として、株式や通貨のバリュエーションにプレミアムを上乗せする要因になっています。
たとえば、中東に生産拠点やサプライチェーンを持つ製造業にとっては、「原材料や部材の輸入コスト」と「現地治安の悪化リスク」を同時に考慮したリスク管理が求められますね。
1-4. 社会への影響:難民・食料・世論分断
社会面では、以下の点が重要です。
- ガザからの避難民やレバノン南部の住民は、既に長期にわたる不安定な生活を強いられており、決議が実際に安全と生活再建につながるかが最大の関心事です。
- 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、治安不安と資金難の中でガザでの支援活動を続けていますが、援助の届かない地域が依然として残っています。
- 欧米・アラブ諸国の世論は、「国際管理による平和の可能性」と「主権と自決権の侵害」という二つのフレームで激しく対立しており、SNS空間での分断も深まっています。
日本の立場から見ると、直接的な軍事関与はないものの、人道支援・復興支援・外交的メッセージの出し方が、国際社会での信頼度やプレゼンスに直結する局面だといえます。
第2章 ウクライナ戦争:トルコ和平協議の不参加とポーランド鉄道サボタージュ
2-1. ロシア、トルコでのウクライナ協議への参加を拒否
ロシア大統領府(クレムリン)は18日、トルコ・イスタンブールで19日に予定されているウクライナ和平協議に「ロシア代表は参加しない」と正式に表明しました。
- ウクライナのゼレンスキー大統領は、トルコの仲介に期待を寄せて訪問を予定していましたが、肝心のロシアが席につかない形となります。
- クレムリン報道官は「現時点では、米国・トルコ側との結果共有は受ける用意がある」と述べるにとどまり、直接協議への復帰には慎重姿勢を示しました。
これにより、「停戦や和平に向けた具体的なロードマップ」が短期的に描かれる可能性は、さらに低くなったと見られています。
2-2. ポーランドの対ウクライナ鉄道への爆破:典型的な「ハイブリッド戦」
こうした外交の停滞と並行して、ヨーロッパのインフラを狙ったサボタージュも顕在化しています。
- 16日、ポーランドの首都ワルシャワとルブリンを結び、さらにウクライナ方面に伸びる重要な鉄道線路で爆発が発生。レールが破壊され、列車が通過していれば脱線大事故になりかねない規模だったと報じられています。
- ポーランドのトゥスク首相は、これを「前例のないサボタージュ行為」と非難し、ウクライナへの武器・物資輸送ルートを狙ったものだと強い警戒感を示しました。
- その後、ポーランド当局はロシア情報機関と連携した疑いのあるウクライナ人2名を容疑者として名指しし、彼らは既にベラルーシに逃亡したとしています。
この事件は、鉄道網・エネルギー施設・通信インフラなどを標的にする「ハイブリッド戦(軍事・サイバー・サボタージュを組み合わせた戦略)」の一環とみなされており、EU全体での警戒レベルが引き上げられています。
2-3. 経済的な影響:物流・防衛費・リスクプレミアム
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物流コストと納期リスク
- ワルシャワ〜ルブリン線は、ウクライナ向けの軍事物資や人道支援物資の輸送にとって重要なルートです。
- 爆発自体による人的被害は出なかったものの、迂回ルート利用や検査強化によって、輸送コストやリードタイムの延伸が避けられません。
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保険・金融市場でのリスク評価
- 欧州の保険会社や金融機関は、ポーランドやバルト諸国のインフラに対するリスク評価を見直す必要に迫られています。
- 国債利回りやCDS(信用リスク指標)に「サボタージュ・テロプレミアム」が上乗せされる可能性も指摘されています。
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防衛・サイバーセキュリティ市場の拡大
- イスラエル、バルト諸国、米国などが得意とするサイバーセキュリティやインフラ監視技術の需要が増加しています。
- 日本企業にとっても、「欧州向けインフラ・セキュリティ分野への技術輸出」の機会とリスク管理の強化という両面が生まれていると言えるでしょう。
具体例として、ポーランドを経由してウクライナに部材や機械を送っている日本の製造業企業は、単一ルート依存を避けるための物流多様化や、サプライチェーン全体のBCP(事業継続計画)の見直しが必要になってきます。
第3章 世界の金融市場:AIブームの反動と地政学リスクで「慎重モード」
3-1. 米株・暗号資産:AI関連の調整とボラティリティ上昇
米国市場では、17日の取引で主要株価指数がそろって下落しました。
- ダウ平均は前日比約1.2%安、S&P500は0.9%安、ナスダックは0.8%安と、3指数とも50日移動平均線を下回りました。
- 特に、AI関連銘柄を中心とするハイテク株が売られ、NVIDIAなどの半導体大手に決算発表前の警戒売りが目立ちました。
- 恐怖指数と呼ばれるVIXは約13%上昇し、市場の不安心理の高まりが示されています。
一方で、暗号資産市場ではビットコインが7か月ぶりの安値水準まで下落し、年初からの上昇分をほぼ吐き出した格好になっています。
「AIバブル」ともいわれた過剰な期待と、地政学リスク・金利動向を巡る不確実性が重なり、「一度ポジションを軽くして様子を見る」ムードが広がっている状況です。
3-2. 原油価格:ロシア制裁とFRB議長人事観測
原油市場では、ブレント原油先物が前日比約1%高の1バレル64.89ドル、WTI原油も1.4%程度上昇して60ドル台前半となりました。
主な材料は以下の通りです。
- アメリカ財務省が、ロシアの大手石油会社ロスネフチとルクオイルに対する制裁の効果が出始めており、ロシアの石油収入を圧迫していると発表
- ウクライナによるロシア黒海港湾への攻撃で一時停止していたロシア原油の積み出しが再開する一方、今後の供給見通しにはまだ不透明感が残っていること
- トランプ大統領が「次期FRB(米連邦準備制度理事会)議長の面接を開始した」と明らかにし、「よりハト派的な人物が選ばれるのではないか」という観測が浮上したこと
より低金利を志向する新議長が選ばれれば、世界的な金利低下→需要押し上げを通じて原油価格を支えるとの思惑が、原油市場に「追い風」として働きました。
3-3. 日本や個人にとって何が問題なのか?
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為替と輸入物価
- 米金利観測とリスクオフで、ドル高基調が続きやすく、円安が長引く可能性があります。
- 原油価格の上昇と円安が重なると、日本のガソリン・電気料金・物流コストに二重の負担がかかります。
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株式・投信への影響
- 日本株でも、米国のAI関連株に連動する半導体・電子部品銘柄がボラティリティを増しています。
- インデックス投資をしている個人投資家にとっては「短期の値動きに振り回されず、長期の資産形成方針を維持できるか」が試される局面と言えそうです。
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企業の資金調達・投資計画
- グローバルなリスクオフ局面では、ハイリスクな新規投資案件やスタートアップへの資金が集まりにくくなります。
- 特にAI・フィンテック・クリーンテックなど成長分野は、期待の高さゆえに調整も大きくなりがちで、「技術的な実力」と「資本市場での評価」のギャップが課題になります。
たとえば、日本の中堅IT企業が米国市場で資金調達を検討している場合、IPOや海外公募債のタイミングを慎重に見極める必要がありそうですね。
第4章 ベレンのCOP30:気候危機と「公正な移行」をめぐる大攻防
4-1. 80超の国が「化石燃料フェーズアウトのロードマップ」を要求
ブラジル・アマゾンの都市ベレンで開催中のCOP30(第30回国連気候変動会議)は、後半戦に入り、交渉が一段と緊迫してきました。
18日には、EUや英国だけでなく、アフリカ・アジア・ラテンアメリカ・太平洋諸国など80を超える国々が、化石燃料からの段階的脱却(フェーズアウト)に向けた正式なロードマップを採択文書に盛り込むよう共同要求を行いました。
一方で、サウジアラビアなど主要な産油国は強く反発。ブラジル議長国は当初、このテーマを公式アジェンダから外していましたが、各国と市民社会からの圧力を受けて、草案に「化石燃料からの移行」という文言を盛り込む方向へ舵を切っています。
4-2. 「公正な移行」とBAM(ベレン行動メカニズム)
今回のCOP30では、「BAM(Belém Action Mechanism)」と呼ばれる新たな枠組みも注目を集めています。
- BAMは、化石燃料からの移行が、労働者や地域社会に過度な痛みを与えないよう、「公正な移行(Just Transition)」を具体的に支える仕組みです。
- 低所得国や産油・産炭地域が、クリーンエネルギー経済に移行する際に必要な資金・技術・能力構築を、「借金ではなく、返済不要の支援も含めて」提供することを目指しています。
- G77+中国(世界人口の約8割を代表する途上国グループ)がBAMへの支持を表明し、女性団体や先住民組織、環境NGOも後押ししています。
こうした枠組みは、単にCO₂削減の数字だけでなく、「雇用」「地域社会」「歴史的責任」の観点を組み込む点で、従来の気候交渉より一歩踏み込んだアプローチです。
4-3. 農業ロビーと若者・先住民の声
同時に、COP30の会場には300人を超える工業型農業(大規模畜産・化学肥料・農薬・バイオ燃料など)のロビイストが参加していることが明らかになり、「食と農業を本気で変えられるのか」という批判も強まっています。
- 肉・乳製品産業、アグロケミカル企業、バイオ燃料関連企業などが、各国代表団に強い影響力を持っていると指摘されています。
- 一方で、若者や先住民のグループは、「化石燃料と同様に、工業的な農業システムも気候危機の大きな要因だ」と訴え、森林破壊や生物多様性の喪失を食い止めるよう求めています。
ブラジル政府は「バイオエコノミー」や森林保全と両立する農業モデルを掲げつつ、実際にはアグリビジネスとの折り合いに苦心しており、その葛藤が交渉の随所に表れています。
4-4. 経済・社会へのインパクト:日本企業と市民にとって
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脱炭素ビジネスと移行リスク
- 化石燃料フェーズアウトのロードマップが具体化すれば、石油・ガス・石炭関連ビジネスには中長期的な「座礁資産リスク」が高まります。
- 同時に、再エネ・省エネ・電動化・グリーン水素・自然を活かした気候対策(Nature-based Solutions)などの分野には、投資機会が拡大します。
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サプライチェーンの再構築
- 大規模畜産や穀物生産に依存するグローバル食品企業は、メタン削減・森林破壊ゼロなどの新たな規制・自主基準に対応する必要が出てきます。
- 日本の食品メーカーや小売企業も、「サプライヤーがCOP後の新基準に適合しているか」を確認することが、ESG投資の観点からも重要になります。
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気候正義と社会の分断
- 「誰がどれだけ負担するのか」という議論は、国内外での不公平感や分断を生みやすいテーマです。
- たとえば、炭素税やガソリン価格の上昇が低所得層に重くのしかかると、「黄色いベスト運動」のような反発が起こり得ます。
- BAMのような「公正な移行」メカニズムは、こうした分断を和らげるための重要な実験とも言えます。
第5章 WHO人員削減と米教育省「解体」:グローバル・ガバナンスの揺らぎ
5-1. WHOが職員の約4分の1・2,300人超を削減へ
世界保健機関(WHO)は、2026年6月までに職員数を約9,400人から7,000人弱へと、22%前後削減する見通しであることを明らかにしました。削減人数は2,371人にのぼる見込みです。
主な背景は、最大の拠出国であったアメリカがトランプ政権の発足とともにWHOからの「脱退」を決め、全体予算の約18%を占めていた資金が失われるためです。
- 管理部門の半数削減や、短期契約職員・コンサルタントの契約終了などにより、人件費を大きく圧縮
- それでも、今後2年間の予算ギャップは約10億ドル規模が残るとされています
5-2. 何が縮小されるのか:感染症・ワクチン・途上国医療
WHOの体制縮小は、次のような分野に直接的な影響を与えるとみられます。
- 新興感染症の監視・早期警戒システム
- ポリオ根絶や麻疹ワクチン接種のキャンペーン
- 紛争地や極度の貧困地域での医療支援
- 精神保健やノンコミュニケーション病(糖尿病・心疾患など)対策
短期的には、既存プロジェクトを優先し、新規プロジェクトや調査研究を絞り込む形で対応しそうですが、長期的には**「次のパンデミックに備える世界の能力」**が目減りするおそれがあります。
日本にとっても、感染症対策の情報共有や技術協力でWHOに依存する部分は大きく、国際連携の枠組みをどう補強するかが課題になりますね。
5-3. 米教育省の「事実上の解体」へ向けた動き
同じく18日、アメリカではトランプ政権が連邦教育省の機能を他の省庁に分散・移管し、「事実上の解体」に踏み出したことが明らかになりました。
- 労働省、内務省、国務省、保健福祉省などに主要な補助金やプログラムを移し、連邦政府による教育政策の関与を縮小
- 連邦教育省の役割を「法的に必要な最低限のプログラムの管理」に絞り、いずれは省そのものの廃止を目指すとしています
- 共和党保守派は「教育を州の手に取り戻す」と歓迎する一方、民主党や教育団体は「弱者や少数派の子どもたちへの支援が削られる」と強く批判しています
5-4. 人材・知のインフラへの長期的影響
WHOと米教育省という「知と人材」に関わる二つの機関が揺らぐことは、グローバルな観点から見ると、次のようなリスクを孕みます。
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人材格差の拡大
- 米教育省の支援が縮小すると、低所得州やマイノリティが多い地域で教育格差が広がる可能性があります。
- その影響は、10〜20年後のアメリカの技術力・イノベーション力の格差となって現れるかもしれません。
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グローバル・ヘルスの脆弱化
- WHOのリストラにより、途上国の保健システム強化やパンデミック対策の国際協調が弱くなれば、新興感染症が再び世界経済を揺さぶるリスクが高まります。
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「公共財」への信頼低下
- 国際機関や中央政府による「教育」や「保健医療」への関与が縮小すると、市場や私的なサービスへの依存が高まり、「教育や医療は買える人のもの」という意識が広がる危険性があります。
たとえば、日本の大学や研究機関にとっては、アメリカの教育・研究環境の変化が、共同研究・留学・人材獲得のパターンを変える可能性があります。長期的には「人材の流れ」そのものが変わっていくかもしれません。
第6章 G20南アフリカサミット:「空席のアメリカ」と多国間主義の行方
6-1. 史上初のアフリカ開催G20に「トランプの空席」
今週末に迫るG20サミット(南アフリカ・ヨハネスブルグ)は、「初のアフリカ開催」でありながら、アメリカ大統領の椅子が「空席」のままになる見通しです。
- ワシントンは、開催国の南アフリカが「白人への差別を行っている」との主張を理由に、首脳レベルでの参加を見送ると説明
- トランプ政権は、サミットの主要議題である「気候変動への適応」「低所得国の債務問題」「エネルギー転換」のアジェンダにも強く異議を唱えています
南アフリカのラマポーザ大統領は、「空席の椅子に象徴的に議長国のバトンを渡す」と述べ、アメリカ不在の中でも、多国間協調の必要性を訴える姿勢を鮮明にしています。
6-2. アフリカと新興国にとってのチャンスと試練
アメリカの「空席」は、他の大国や新興国にとっては次のような意味を持ちます。
- EUや中国、日本などが、アフリカとのエネルギー転換・インフラ整備・鉱物資源協力を進める絶好の機会
- 一方で、アメリカ不在のG20は「実効性が乏しい場」と見なされるリスクもあり、首脳宣言がどこまで踏み込んだ内容になり得るかは不透明
南アフリカは、アフリカ連合(AU)代表団とともに、「気候危機と債務危機で苦しむグローバル・サウスの声」を前面に押し出したい考えですが、主要排出国や債権国との利害調整は容易ではありません。
6-3. 日本と世界がこれから注視すべきポイント
- G20でどこまで「気候・債務・エネルギー」の3点セットに関する具体的なロードマップを示せるか
- アメリカ不在の空白を、EU、中国、インドなどがどのような組み合わせで埋めに行くのか
- COP30やWHO改革など、他の多国間フォーラムとの「連動」が図られるのか、それとも各会議がバラバラに進むのか
日本としては、「アメリカとの同盟」と「グローバル・サウスとの対話」をどう両立させるかが、これまで以上に難しい外交課題になっていきますね。
まとめ:安全保障・気候・国際機関という「三重の試練」
2025年11月18日の世界は、大きく言えば次の「三つの試練」が同時進行している一日だったと言えます。
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安全保障の試練
- ガザ和平決議とレバノン空爆、ウクライナ協議の停滞、ポーランドの鉄道サボタージュ。
- 戦争そのものはやや下火になっても、「ハイブリッド戦」や代理戦争、テロ行為が続き、平和の基盤はまだ脆弱です。
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気候危機の試練
- COP30での化石燃料フェーズアウト・公正な移行・農業システム改革をめぐる激しい攻防。
- 気候危機が単なる環境問題ではなく、「エネルギー政策」「食料システム」「雇用」「地域の尊厳」をめぐる総合的な政治問題であることが、改めて浮き彫りになっています。
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国際機関と多国間主義の試練
- WHOの大規模リストラ、米教育省の解体、G20南アフリカサミットでのアメリカ不在。
- 世界のルールや公共財を支えてきた「国際機関」「多国間の場」に対する信頼と資金が揺らぐ中で、新しい協力の形を模索する必要があります。
今後数日の注目ポイントとしては、
- ガザ平和評議会とISFの具体的な構成国・権限がどう決まるか
- トルコでのウクライナ協議の内容と、その後のロシア・米国・EUの反応
- COP30の最終合意文書に「化石燃料フェーズアウト」「BAM」「公正な移行」がどの程度明記されるか
- WHOの加盟国が、人員削減計画にどう条件を付けるのか、追加拠出を検討する国が出てくるのか
などが挙げられます。
私たち一人ひとりにできることは限られていますが、「世界で何が起きていて、それが自分の生活や仕事とどうつながるのか」を意識的に追いかけることで、将来の選択肢を少しずつ増やしていくことはできます。
今日のまとめが、そのための小さな手がかりになればうれしいです。
参考リンク(英語・外部メディア)
- UN Security Council approves Trump’s peace plan for Gaza(Euronews)
- After UN vote, Netanyahu calls for Hamas’ expulsion from the region(Reuters)
- Thirteen people killed in Israeli strike on Lebanon’s Sidon(Reuters)
- Kremlin says Russia will not participate in Ukraine talks in Turkey this week(Reuters)
- Poland railway line explosion near Warsaw ‘act of sabotage,’ prime minister says(AP)
- Oil settles up 1% on Russia sanctions, interviews for next US Fed chair(Reuters)
- WHO to shed over 2,000 jobs by mid-2026, document shows(Reuters)
- Trump administration announces steps in dismantling Education Department(Reuters)
- Trump’s empty chair at G20 summit is opportunity for South African hosts(Reuters)
- More than 80 countries at Cop30 join call for roadmap to fossil fuel phase-out(The Guardian)
- More than 300 big agriculture lobbyists have taken part in Cop30, investigation finds(The Guardian)
