ローカル環境で動作する最新LLMの性能比較
〜2025年に「自分のPCでAI」を本気で使いたい人のためのモデル&マシンスペックガイド〜
1. この記事でお伝えしたいこと
2025年に入ってから、
「クラウドじゃなくて、自分のPC(ローカル)でLLMを動かしたい」
というニーズが一気に増えました。
理由はシンプルで、
- 月額課金を抑えたい
- 機密データをクラウドに出したくない
- オフラインでも使いたい
- カスタム学習やプラグイン的な使い方をしたい
といった“現場のリアル”があるからです。
一方で、
・どのモデルが“今どきの本命”なのか
・自分のPCスペックでどこまで動くのか
・GPUなしでも使えるのか
が分かりにくいのも事実ですよね。
そこでこの記事では、2025年末時点の情報をもとに、
- ローカルでよく使われている最新LLMの「性能・特徴」を比較
- どの程度のマシンスペックがあれば、どのクラスのモデルが快適に動くか
- 用途別(チャット/プログラミング/数学・推論)にどのモデルが向いているか
を、できるだけ分かりやすく整理していきます。
2. ローカルで動かせる「最新LLM」の全体像
まずは、2025年時点でローカル利用の文脈でよく名前が出る“代表格”をざっくりまとめておきます。
2-1. モデルのラインナップ(7〜10B前後が主役)
オープンソース系でローカル向きとされる代表モデルは、たとえば以下のあたりです。
-
Llama 3.1 8B / 70B(Meta)
- 8B・70B・405Bのラインナップ。
- 8Bは軽量ながら、多言語対応・128Kコンテキストなどを備えた高性能モデル。
-
Qwen2.5 7B / 14B / 32B(Alibaba/Qwen)
- 2.5世代で知識量と推論性能が大きく向上。
- 7BモデルでMMLUスコア74.2と、同クラスではトップレベル。
-
Gemma 2 2B / 9B / 27B(Google)
- ローカル実行を公式に意識したGoogle製モデル。
- 9B版は性能とサイズのバランスが良く、4bit量子化でVRAM 7〜8GB程度でも動作報告あり。
-
Phi-4 mini / mini-flash / mini-reasoning(Microsoft, 約3.8B)
- 3.8Bという“小ささ”ながら、数学・推論系でサイズ2倍以上のモデルを上回る性能。
- モバイルやエッジデバイス向けにも最適化されており、64K〜128Kコンテキストに対応。
-
Mistral / Mixtral / Nemo系(Mistral AI / NVIDIA系)
- Mixtral 8x7BやMistral Nemo 12Bなど、MoE(Mixture-of-Experts)構造で効率よく高性能を出すモデル群。
これらは、Ollama / LM Studio / local-gemma / llama.cpp などのツールを通じて簡単にローカル実行できるようになっており、
**「7〜10B前後のモデルを1枚GPUで動かす」**のが、2025年のローカルLLMの主流になっています。
3. モデル別:性能と性格の違いをざっくり比較
細かいベンチマークは山ほどありますが、ここでは実用的な観点で“性格の違い”を整理してみます。
3-1. Llama 3.1 8B:総合力と安定性の「ど真ん中」
特徴
- 8B / 70B / 405Bのラインナップのうち、ローカル向けの本命は8B。
- 128Kトークンの長コンテキスト、多言語対応、推論・コーディング・数学をバランスよくカバー。
性能感(イメージ)
- 同クラスのオープンモデル(7〜9B)と比べても、
総合的なチャット性能・日本語力・安定性で“基準モデル”的な位置づけ。 - GPT-4o miniやGemini 1.5 Flashには及ばないものの、
「ローカルで動く8Bモデル」としてはかなり競争力があると評価されています。
ローカル実行の目安
- フル精度(FP16)の場合:
12GB級GPU(RTX 3060〜4070など)でちょうど良いくらい。 - 4bit量子化なら:
8GBクラスのGPUでも現実的(ただし速度と精度はやや落ちます)。
向いている用途
- 何でも屋のチャットボット
- 日本語含むマルチリンガル文章生成
- 軽めのプログラミング支援
- 社内用QAボットのベースモデル
3-2. Qwen2.5 7B / 14B:多言語&コード特化の“実務型”
特徴
- Qwen2 → Qwen2.5でデータ量が7T → 最大18Tトークンに増加し、
知識量と推論精度が大きくアップ。 - 7BモデルでMMLU 74.2、72Bでは86.1と、同サイズ帯の中ではかなり高いスコア。
- Coder版やMath版など、用途別の派生モデルが非常に充実。
性能感
- 一般チャットでも強いですが、特に
- コーディング(Qwen2.5-Coder)
- 数学・推論(Qwen2.5-Math)
など「技術寄りのタスク」で頭一つ抜けている印象です。
ローカル実行の目安
- 7Bモデル:
- 4bit量子化であれば 8〜12GB VRAM のGPUでも快適な動作報告多数。
- 14Bモデル:
- 16〜24GB VRAM が欲しい(RTX 4080 / 4090クラス)。
向いている用途
- プログラミング補助/コード生成/リファクタリング
- 数学・アルゴリズム系の問題(GSM8KやMATH系ベンチマークでも好成績)
- 中国語+英語+日本語の混在環境(アジア圏多言語)
- 技術ブログ・ドキュメント生成
3-3. Gemma 2 9B:Google製の「ローカル前提モデル」
特徴
- 2B / 9B / 27Bの3サイズ。
- Google自身が「ローカルでも動かしやすいモデル」として位置づけ、
Hugging Faceにはローカル実行向けのlocal-gemmaツールまで提供。 - 技術的には9Bモデルで
- 約9Bパラメータ
- 8192トークンのコンテキスト
- GQA・ROPEなどモダンな構造を採用。
VRAM・ストレージ要件
- 生の9Bモデル:
- ディスク約40GB、VRAM 40GB(BF16なら20GB)、RAM 8GB以上が推奨とされています。
- 4bit量子化版(local-gemmaプリセット)の例:
- 「Memory」プリセットで9Bは約7.3GB VRAM、
- 「Memory Extreme」ではCPUオフロード込みで3.7GB VRAMでも動作報告あり。
性能感
- Llama 3.1 8Bと同クラスの“万能モデル”として評価されつつ、
特に英語での自然な文章生成や論理展開で高い評価を受けています。
向いている用途
- 一般的なチャット・文章生成
- 英語中心+日本語サブ、のような国際的なチーム利用
- Google系ツールとの連携を視野に入れつつ、ローカルでも回したい場合
3-4. Phi-4 mini / mini-flash / mini-reasoning:3.8Bの“小さな怪物”
特徴
- パラメータ数はわずか3.8Bなのに、
- 数学ベンチマーク(GPQA・Math500など)で
2倍以上のサイズのモデルを上回る - OpenAIのo1-miniクラスに匹敵するとMicrosoft自らアピール。
- 数学ベンチマーク(GPQA・Math500など)で
- Phi-4-mini / mini-flash / mini-reasoning など派生があり、
- mini:汎用向け
- mini-flash:低レイテンシ・高速
- mini-reasoning:数学・論理推論に特化
- 64K〜128Kコンテキストに対応しつつ、モバイル/NPUでも動作可能な設計。
ローカル実行の目安
- 3.8Bクラスなので、
- GPUなしのCPUオンリー環境
- 8〜16GB RAMのノートPC
でも十分実用レベルで動かせます。
性能感
- サイズの割に推論タスクが非常に強いので、
「軽くても頭のキレが良い」モデルを探している方にはぴったりです。 - チャットの自然さという点ではLlama 3.1やGemma 2の方が優勢な場面もありますが、
計算・論理・アルゴリズム系の相談にはとても心強い存在です。
向いている用途
- GPUなしPCでのローカルLLM入門
- 数学・プログラミング学習の“家庭教師”
- 軽量なチャットボット・エッジデバイスでの推論
3-5. Mistral / Mixtral / Nemo系:MoE構造で「重いけど強い」
特徴
- Mixtral 8x7Bなど、Mixture-of-Experts構造で
「内部的には大きいけれど、実際に動かす部分は一部だけ」という効率設計。 - NVIDIAのMistral Nemo 12Bなども、
GPU最適化が進んでおり、RTX 4090クラスのマシンでは非常に高いスループットが得られます。
ローカル実行の目安
- 現実的に快適に使うには、
- RTX 4090(24GB VRAM)+64GB RAM以上
- もしくはA100 / H100クラス
が欲しくなってくる世界です。
向いている用途
- ローカルサーバーとして複数ユーザーにLLM機能を提供したい
- 高性能モデルをクラウドレスで回したい企業・研究室
- コード補完・分析など重めの処理をガッツリ回す用途
4. マシンスペック別:「どのクラスのモデル」が現実的か
ここからは、よくあるPCスペックごとに
「どのサイズのモデルが現実的か」をざっくりお伝えしますね。
4-1. GPUなしノートPC(16GB RAM程度)
イメージスペック
- CPU:ノート用Core i5 / Ryzen 5クラス
- GPU:オンボード(専用GPUなし)
- メモリ:16GB
- ストレージ:512GB SSD
現実的なモデルサイズ
- 〜3〜4B級のモデルがメインターゲット
- 例:Phi-4-mini / mini-flash / mini-reasoning、1〜3B級のQwen 2.5小型版など
- 7Bモデルも4bit量子化+CPUオンリーで動かせますが、
- 応答速度はかなり遅くなる
- 長時間負荷でバッテリー・発熱が厳しい
向いている用途
- 軽めのチャット・文章生成
- 数学・アルゴリズムの勉強用途(Phi-4-mini系)
- モバイルやラップトップで「まず試してみる」フェーズ
4-2. ミドルレンジGPU搭載PC(RTX 3060〜4070, 8〜12GB VRAM)
イメージスペック
- GPU:RTX 3060 / 4060 / 4070(8〜12GB VRAM)
- メモリ:32GB RAM
- ストレージ:1TB SSD
Gemma 2向けのローカル環境解説でも、
「最小構成としてRTX 3060(12GB VRAM)、32GB RAM、500GB〜1TB SSD」などが例示されています。
現実的なモデルサイズ
- 7〜9Bモデルの4bit量子化版
- Llama 3.1 8B、Qwen2.5 7B、Gemma 2 9B(local-gemmaのMemoryプリセット)など。
- 3〜4Bモデルは“超快適”。
向いている用途
- 日常のチャット+業務文書作成
- プログラミング補助やコードレビュー
- 社内向けのQAボット・小規模ナレッジ検索
このクラスのマシンは、
「自宅で本気でローカルLLMを使う」人の事実上の標準構成になりつつあります。
4-3. ハイエンドGPUマシン(RTX 4080 / 4090, 16〜24GB VRAM)
イメージスペック
- GPU:RTX 4080 / 4090(16〜24GB VRAM)
- メモリ:64GB RAM以上
- ストレージ:1〜2TB SSD
RTX 4090+Ollama環境でのベンチマークでは、
Llama / Qwen / Gemma / DeepSeek など複数モデルを高速にホストできることが示されています。
現実的なモデルサイズ
- 14B〜27Bクラスのモデル(4bit量子化)
- 複数モデルの同時稼働(チャット用+コーダー用など)
向いている用途
- チーム内での“オンプレAIサーバー”
- 重いコーディングモデル(Qwen2.5-Coder 14B/32Bなど)
- 研究開発・ベンチマーク・カスタム微調整
4-4. ワークステーション/サーバー(A100 / H100, マルチGPU)
イメージスペック
- GPU:A100 40GB / H100 80GB ×1〜複数枚
- メモリ:128GB以上
- ストレージ:2TB以上
Gemma 2のシステム要件でも、
最適構成としてA100 / H100クラスが例として挙げられています。
現実的なモデルサイズ
- 70B級モデル(Llama 3.1 70Bなど)のフル精度推論
- 複数ユーザーの同時接続・高スループット
向いている用途
- 企業・研究機関でのオンプレAI基盤
- 大規模ナレッジ検索・社内Copilot的なサービス
- 微調整(ファインチューニング)やRL系の研究
一般の個人利用ではオーバースペックですが、
「クラウド前提のLLM基盤を社内に閉じたい企業」には現実的な選択肢になりつつあります。
5. 性能比較の見方:ベンチマークだけに振り回されないコツ
LLMの性能記事を読むと、
- MMLU
- GSM8K
- HumanEval
- GPQA
- MT-Bench
などの略語がたくさん出てきて、
正直ちょっとしんどいですよね…。
ざっくり噛み砕くと、こんな感じで見ると楽になります。
5-1. ベンチマークのざっくり分類
- MMLU:一般知識・学術的な幅広い問題
→ 「教養・知識の広さ」をざっくり見る指標。 - GSM8K / MATH:算数・数学の文章問題
→ 計算・論理・数的推論の強さ。 - HumanEval / MBPP:プログラミング問題
→ コード生成・アルゴリズム理解の強さ。 - MT-Bench:対話・推論・指示理解を人間評価で測る指標。
Qwen2.5やPhi-4 miniは、
GSM8KやMATHなどの数学系で特に強いことが報告されており、
「小さいのに頭の回転が速い」タイプ。
一方、Llama 3.1 8BやGemma 2 9Bは、
MMLUやMT-Bench的な総合評価で安定して高スコア、
「全体的にそつがなく、どのタスクも一定以上こなせる」タイプです。
5-2. 実際の「使いやすさ」に効いてくるポイント
ベンチマークだけでなく、
ローカル運用の観点では次のような点も大切です。
- 応答速度(トークン毎秒)
- 日本語の自然さ
- 指示に対する素直さ(勝手に話を膨らませすぎないか)
- コンテキスト長(どれだけ長い資料を入れられるか)
- モデルの安定性(暴走しにくいか)
たとえば Phi-4 mini-flash は、
新しいハイブリッドアーキテクチャにより
「従来より10倍のスループット・2〜3倍の低レイテンシ」と報じられており、
レスポンスの速さという実用面でかなり魅力的です。
6. 用途別:どのモデル+スペックが相性いい?
最後に、よくあるニーズ別に
「モデル+マシンスペック」の組み合わせイメージをいくつかご紹介します。
6-1. 日常チャット+ブログ・資料作成がメイン
おすすめモデル候補
- Llama 3.1 8B
- Gemma 2 9B
- (軽めなら)Phi-4 mini系
おすすめスペック
- GPUなし:
→ Phi-4 miniをメインに。 - RTX 3060〜4070(8〜12GB VRAM):
→ Llama 3.1 8B / Gemma 2 9B 4bit版が快適。
ポイント
- 日本語での自然な表現、構成力を重視するなら
8〜9Bクラスがやはり安心感があります。 - 文章量の多い仕事なら、8B以上をメインに選ぶのがおすすめです。
6-2. プログラミング補助・コード生成をガッツリ使いたい
おすすめモデル候補
- Qwen2.5-Coder 7B / 14B
- Llama 3.1 8B(汎用+コード)
おすすめスペック
- 7B運用:
- RTX 3060〜4070(8〜12GB VRAM)+32GB RAM
- 14B運用:
- RTX 4080 / 4090(16〜24GB VRAM)+64GB RAM
ポイント
- 「IDE+ローカルLLMでCopilot的な体験をしたい」場合、
7Bクラスでもかなり実用的です。 - テスト生成・リファクタ・複雑なリポジトリ理解まで期待するなら、
14Bクラス&ハイエンドGPUがあると余裕が出ます。
6-3. 数学・推論・研究寄りの用途
おすすめモデル候補
- Phi-4-mini-reasoning / mini-flash
- Qwen2.5-Math 7B など
おすすめスペック
- GPUなし〜ミドルレンジGPUで十分(3.8B〜7Bクラス)。
ポイント
- 数学・論理系は「サイズより賢さ」の傾向が強く、
Phi-4 miniクラスでも驚くほどよく考えてくれます。 - まずは軽量モデルで試し、必要に応じてQwen2.5-Mathなどに広げるのがおすすめです。
7. まとめ:ローカルLLM選びのシンプルな指針
少し情報量が多くなってしまったので、
最後に“選び方の軸”をシンプルにまとめますね。
-
まずはマシンスペックで上限を決める
- GPUなし → 〜4Bクラス(Phi-4 miniなど)
- 8〜12GB VRAM → 7〜9Bクラス(Llama 3.1 8B、Qwen2.5 7B、Gemma 2 9B 4bit)
- 16〜24GB VRAM → 14〜27Bクラスも視野
- 40GB VRAM以上 → 70B級も現実的
-
次に用途でモデルファミリーを選ぶ
- なんでも屋 → Llama 3.1 / Gemma 2
- コーディング特化 → Qwen2.5-Coder
- 数学・推論 → Phi-4 mini / Qwen2.5-Math
-
最後に“実際に触ってみて”好みで決める
- 応答の速さ
- 日本語の雰囲気
- 指示の聞き方
などは、数値だけでは分からない“相性”の部分なので、
Ollamaやlocal-gemmaなどで 2〜3モデルを乗り比べてみる のがいちばん確実です。
ローカルLLMは、
クラウドの巨大モデルに比べるとまだ制約は多いものの、
・コストをコントロールしやすい
・機密情報を外に出さずに済む
・自分好みにカスタムしやすい
という意味で、
これからますます「実務の現場」で存在感が増えていくと思います。
