Laravel×PDF処理の決定版:精度で選ぶOCR/LLMおすすめランキング&比較表【2025年版】
この記事のゴールと想定読者
まず結論から整理しておきます。
- PDFのテキスト抽出(テキストPDF)
→ Laravelではspatie/pdf-to-text経由の pdftotext でほぼ決まり - 画像PDFの文字起こし(スキャン・FAX・写真)
→ クラウドOCR(Google Cloud Vision / Azure AI Vision)を軸に選ぶのが精度面で有利 - 意味理解・項目抽出・要約
→ 長文PDFに強いLLM(Gemini 1.5 / 2.5、GPT-5.1系、Claude 3.5 Sonnet など)から用途に合うものを選ぶ
この記事は、次のような方に向けて書いています。
- Laravelで「請求書アップロード」「契約書管理」「帳票読み取り」などの機能を作っているバックエンドエンジニア
- 社内業務システムやBtoB SaaSで、紙→PDF→データベースの自動化を任されている方
- 「とりあえずTesseractとGPTでやってみたけど、精度と保守がつらい…」と感じている方
そしてテーマははっきり一つだけです。
「LaravelでPDFを読むとき、
最終的にどのOCRとどのLLMを選べば幸せになれるのか? を、精度重視で決め切る」
そのために、
- Laravel×PDFの基本アーキテクチャ
- OCRの精度重視ランキング&比較表(日本語PDF前提)
- LLMの精度重視ランキング&比較表(PDF理解/項目抽出前提)
- 目的別の「この組み合わせを選べばOK」パターン集
- 実装時のコツ(トークン数・コスト・ジョブ設計など)
まで一気に整理していきます。
1. Laravel×PDF処理の全体像をざっくり整理
まずは、よくある構成をおさらいしておきます。
1-1. 三段構えの基本パターン
あなたが書かれていた通り、現実的なベストプラクティスは次の三段構えです。
-
PDF内テキスト抽出(テキストPDF)
- ツール:
pdftotext(poppler) - Laravel:
spatie/pdf-to-textパッケージから呼び出し
- ツール:
-
画像PDFのOCR(スキャン・FAXなど)
- ツール:クラウドOCR(Google Cloud Vision / Azure AI Vision)
- 代替:ローカルOCR(Tesseract / PaddleOCR / DeepSeek-OCRなど)
-
意味理解・項目抽出・要約(LLM)
- ツール:GPT系(GPT-5.1 / GPT-5 / GPT-4.1など)、Gemini 1.5 / 2.5、Claude 3.5 Sonnet など
- 役割:
- 文書の分類
- JSONスキーマに沿った項目抽出
- 要約・説明文生成など
アプリ側のフローとしては、ざっくり次のようになります。
- ユーザーがPDFをアップロード
- LaravelがPDF種別を判定
pdftotextで素直に取れれば「テキストPDF」- ほぼ空orゴミテキストなら「画像PDF」とみなす
- 種別に応じて
- テキストPDF → そのままテキストへ
- 画像PDF → 画像へ変換 → OCRへ投げる
- 抽出したテキストをLLMへ送り、
- JSON形式の項目抽出
- 要約/分類/チェックなどをさせる
- DB保存・検索インデックス作成・画面表示に利用
1-2. Laravelでの最小サンプル(テキストPDF)
テキストPDFだけなら、Laravel側はとてもシンプルです。
use Spatie\PdfToText\Pdf;
$text = Pdf::getText(storage_path('app/uploads/sample.pdf'));
サーバ側には pdftotext(poppler-utils)さえ入っていればOKです。
この段階で「そこそこ綺麗なテキスト」が得られるなら、
OCRもLLMも使わずに済むケースもあります(コストゼロで済むので、まずはここを最大限活かす設計が大事です)。
2. 精度重視のOCRランキング【日本語PDF前提】
ここからが本題の1つ目、OCR選びです。
前提条件を、あえて絞り込みます。
- 読みたいのは日本語中心(漢字+ひらがな+カタカナ)
- 縦書き・横書きが混在したPDFもある
- 求めるのは 帳票・契約書・請求書レベルの精度
- LaravelからAPI/CLIで呼び出せること
この前提で、公開ベンチマーク・公式ドキュメント・日本語の実務ブログなどを総合して、
実務レベルで安心して使える順に並べると、だいたい次のような順位になります。
2-1. OCR精度ランキング(2025年/日本語業務PDF想定)
| 順位 | OCRエンジン | 種別 | 日本語対応 / 特徴のざっくり評価 |
|---|---|---|---|
| 1 | Google Cloud Vision OCR + Document AI | クラウド | 日本語・縦書き・レイアウトに強く、総合的な精度と安定性が高い |
| 2 | Microsoft Azure AI Vision Read + Document Intelligence | クラウド | 日本語対応+テーブル・フォーム抽出が優秀、コンテナ配布もあり |
| 3 | ABBYY FineReader / Vantage | 商用オンプレ/クラウド | 歴史の長い高精度OCR。段組保持と日本語対応に定評 |
| 4 | DeepSeek-OCR(オープンモデル) | 自前GPU | 新興だが高精度をうたうVLMベースOCR。トークン圧縮でコスト削減が期待される |
| 5 | Tesseract / PaddleOCR | OSS | きれいな印刷文書なら実用レベル。ノイズ・レイアウト・手書きには弱め |
以下、それぞれもう少しだけ詳しく見ていきます。
2-2. 第1位:Google Cloud Vision API+Document AI
こんな人向け
- GCPをすでに使っている、もしくはこれから選ぶ予定
- 日本語のスキャンPDF(契約書・請求書・明細など)を高精度で取りたい
- 手書き混在や縦書きもある程度カバーしたい
Google Cloud Vision OCRは、多数の比較記事や調査で高い認識率を示しており、
印刷文書全体ではトップクラスの精度とされています。
さらに、日本語・縦書きを含む実務検証の記事でも、
- 日本語・縦書き・レイアウト解析込みで扱いやすい
- 手書き+活字混在にも比較的強い
と評価されており、日本語業務シーンでの実績が豊富です。
Laravelからの呼び出しイメージ
- Laravelには公式のPHPクライアントを利用(
google/cloud-vision) - StorageにアップロードしたPDFを一度画像化(ImageMagickなど)し、ページごとにVision APIへ投げる
- 帳票や契約書の構造化が必要なら、Document AIの専用プロセッサを併用
シンプルな例(画像1枚)だと、こんなイメージです。
$client = new \Google\Cloud\Vision\V1\ImageAnnotatorClient();
$image = file_get_contents(storage_path('app/ocr/page-1.png'));
$response = $client->documentTextDetection($image);
$text = $response->getFullTextAnnotation()->getText();
本番ではこれをジョブキューで非同期処理し、1PDF=複数ページを並列に処理していく構成が定番です。
2-3. 第2位:Azure AI Vision Read+Document Intelligence
こんな人向け
- Azure/Microsoftスタックが社内の標準
- 将来的にオンプレ(コンテナ)でもOCRを回したい
- フォーム・テーブルの構造化が重要(伝票・申込書など)
Azureの「Read」モデルと「Document Intelligence」は、印刷文書と手書きを両方扱え、
テーブル・フォーム・チェックボックスまで含めて抽出できることが特長です。
日本語対応も正式に含まれており、開発者向けドキュメントやブログでも、
日本語OCRの事例が多く紹介されています。
Laravelからの呼び出しイメージ
- REST APIをGuzzleなどで叩くか、
azure/azure-sdk-for-phpを利用 - 長めのジョブ(非同期OCR)になるため、ポーリング or Webhookで結果取得
- コンテナ版を使えば、社内NW内で完結させることも可能
実務的には、
- OCR → JSON(テーブル・フォーム構造付き)
- そのJSONをそのままLLMのプロンプトに投げて、意味付け・項目名マッピングをする
といった二段階構成にすると、かなり堅牢になります。
2-4. 第3位:ABBYY FineReader / Vantage(商用OCRの老舗)
こんな人向け
- すでに紙文書のスキャン基盤としてABBYYを採用している
- 金融・公共案件などでオンプレ前提、かつ文書種別が多い
- OCRにまとまった予算が割り当てられている
ABBYYは長年「高精度OCR」の代名詞で、FineReaderやVantageなど複数製品があります。
公開ベンチマークは限られるものの、多くの比較で依然として上位に挙げられています。
日本語・レイアウト保持・表構造の認識などのバランスが良く、
「とにかく既存の紙文書資産を一気にデジタル化したい」ようなプロジェクトでは、
今でも第一候補になることが多いです。
Laravel連携の現実的なやり方
- Windows or Linuxサーバ上でABBYYエンジンを動かし、CLI or RESTで叩く
- Laravelからは「キューに投げる→処理サーバでOCR→結果JSONをS3などに置く」という疎結合構成にする
ライセンスとインフラの手間はかかりますが、
「オンプレで高精度OCRを長期に運用したい」ケースでは、今でも非常に強力な選択肢です。
2-5. 第4位:DeepSeek-OCR(先進的だがまだ実験枠)
こんな人向け
- すでに自前GPU(A100クラスなど)を持っている
- LLMパイプラインのトークン削減・スループットを極限まで追求したい
- 新しめのOSS/オープンウェイトモデルを検証する余裕があるチーム
DeepSeek-OCRは、2025年に発表されたVLMベースのOCRモデルで、
- レイアウト・表・手書き・数式などを一通り扱える
- 「視覚トークンの圧縮」によって、LLMに渡すトークン数を10倍程度削減しつつ精度を保つ
といった野心的なコンセプトを掲げています。
ただし、公式論文とベンダー自身による比較が中心で、
日本語を含む厳密な第三者ベンチマークはまだ少ない点には注意が必要です。
Laravelから使う場合は、
- DeepSeek-OCRをDockerなどでデプロイ
- Laravelからは通常のHTTP APIとして扱う
という構成になります。R&D寄りのチームであれば、コストと性能の観点から検証する価値は十分あります。
2-6. 第5位:Tesseract / PaddleOCR(OSS枠)
こんな人向け
- まずはゼロ円で動くものから始めたい
- サーバに追加パッケージを入れることに抵抗がない
- 画像前処理(傾き補正・二値化・ノイズ除去など)も工夫できる
TesseractはGoogle発のOSS OCRエンジンで、100以上の言語に対応し、日本語も学習済みモデルが存在します。
きれいな印刷文書であれば十分実用的な精度を出せますが、
- 低解像度スキャン
- マルチカラムのレイアウト
- 手書き混在
- 変則的なフォント
などに対しては、クラウドOCRよりかなり弱いのが正直なところです。
PaddleOCRも同じくOSSで、テーブルやレイアウト解析モジュールを含む強力なスイートですが、
やはり「使いこなす」までにエンジニアリングコストがかかる点は意識しておきたいところです。
Laravelからの使い方サンプル(Tesseract)
サーバに tesseract を入れてしまえば、LaravelではシンプルにCLI呼び出しができます。
$path = storage_path('app/ocr/page-1.png');
$outputPath = storage_path('app/ocr/page-1');
// 日本語モデル(jpn)を指定
$cmd = sprintf('tesseract %s %s -l jpn', escapeshellarg($path), escapeshellarg($outputPath));
exec($cmd);
// 出力は .txt に書き出される
$text = file_get_contents($outputPath . '.txt');
少量・低予算案件のPoCには非常に向いていますが、
「本番で何万ページも処理する」レベルでは、クラウドOCRを検討した方がトータルコストはむしろ下がることが多いです。
2-7. あえてランキングから外した:Amazon Textract(日本語PDFの注意点)
「AWS使ってるし、Textractで良くない?」
と一度は考えると思うのですが、日本語PDF前提なら現時点ではおすすめしにくいです。
公式FAQやベストプラクティスでは、対応言語が
「英語・スペイン語・ドイツ語・イタリア語・フランス語・ポルトガル語」に限られており、
日本語は含まれていません。
日本語で試した検証記事でも、「ほとんど読めない」「日本語は無視される」といった結果が報告されています。
AWSで日本語OCRをやりたい場合は、Textractではなく、
- Azure / GCPのOCRを組み合わせる
- **Bedrock+Claudeのマルチモーダル機能で「擬似OCR」**を行う
といった構成が現実的です。
3. LLMの精度ランキング【PDF理解・項目抽出向け】
次は3段構えの「3つ目」、LLM側の選定です。
ここでの前提は次の通りです。
- 入力は「テキスト化済みのPDF内容」または「PDFファイルそのもの」
- 日本語の契約書・請求書・報告書などを対象
- やりたいことは主に
- JSONでの項目抽出(例:請求書ヘッダ・明細行)
- 長文の要約・要点抽出
- 規約・ルールの自動チェック
この前提で、現時点での総合的な“使いやすさ+精度”ランキングは、だいたい次のようなイメージになります。
3-1. LLM精度ランキング(2025年末/PDF業務用途)
| 順位 | モデル群 | 強いところ | 弱み・注意点 |
|---|---|---|---|
| 1 | Gemini 1.5 Pro / 2.5 Pro | PDFをネイティブに扱えるマルチモーダル、2Mトークン級の超ロングコンテキスト、レイアウト・表理解 | Googleエコシステム前提になりやすい |
| 2 | GPT-5.1 系(GPT-5.1 / GPT-5 / GPT-4.1) | 指示追従・構造化出力・日本語性能のバランスがとても良い。ファイル入力にも対応 | モデル・料金プランの選択肢が多く設計が少し複雑 |
| 3 | Claude 3.5 Sonnet | PDF+画像を一度に理解。日本語の長文読解と要約が得意。Bedrock経由でAWSとも相性◎ | PDFのページ数やサイズに制限あり(100ページ程度までの視覚解析など) |
以下、それぞれをLaravelの利用イメージ込みで整理します。
3-2. 第1位:Gemini 1.5 Pro / 2.5 Pro(Google)
こんな人向け
- GCP / Google Workspace をすでに使っている
- **「超」長文PDF(数百〜数千ページ)**を1回で投げて処理したい
- 表・図・画像も含めて「PDFをそのまま理解」してほしい
Gemini 1.5 Proは、最大2Mトークンという非常に長いコンテキストウィンドウと、
PDFをそのまま理解するマルチモーダル能力を売りにしています。
PDF処理に関する実務記事でも、
- PDF内のテーブル・チャート・図を含めて構造化
- 大量のPDFをまとめて投げて候補者情報を抽出(採用シーン)
といった使い方が紹介されており、**「PDFに強いLLM」**として評価されています。
Laravelからの利用イメージ
- Vertex AI or Gemini APIを、通常のHTTP APIとして叩く
- PDFファイルそのものを送るか、事前にOCR済みテキストを投げるかを選択
- 出力フォーマットは JSON Schema をプロンプトで指定
サンプル的には、次のような流れです。
- Laravel側でPDFをCloud Storageへアップロード
- Cloud Functions or Cloud RunでOCR(Vision)+Geminiを起動
- 結果JSONをFirestore / Cloud SQLに保存、LaravelからはAPI経由で読む
完全にLaravelから直接叩くこともできますが、
GCPのマネージドサービスで「PDF処理専用のマイクロサービス」を作り、LaravelはフロントAPIに専念する構成が、保守面ではおすすめです。
3-3. 第2位:GPT-5.1系(GPT-5.1 / GPT-5 / GPT-4.1)
こんな人向け
- すでにOpenAIのAPIやChatGPTを使っている
- JSONでの構造化出力やツール呼び出しをがっつり使いたい
- GPTシリーズのエコシステム(ライブラリ・記事・ノウハウ)の多さを活かしたい
GPTシリーズは、2025年時点だと GPT-5 / GPT-5.1、並びに GPT-4.1 系が現役の主力モデルになっています。
特徴をざっくり挙げると、
- 指示追従がとても素直で、スキーマ通りのJSONを返させやすい
- 1Mトークン級のロングコンテキスト(GPT-4.1系)で、複数PDFも扱いやすい
- ファイル入力(PDF)に対応しており、そのまま「このPDFを要約」「JSONで項目を抽出」といったプロンプトが書ける
とくに、構造化出力まわりは公式ドキュメントや事例が非常に豊富で、
「請求書→標準化されたJSONスキーマに落とす」といったニーズにとても向いています。
Laravelからの利用イメージ
openai-php/clientなどのPHP SDKを使うか、GuzzleでREST APIを叩く- PDFファイルを
input_fileとしてアップロードし、input_textと組み合わせて指示を出す - モデルは、業務内容に応じて
gpt-5.1/gpt-5/gpt-4.1系からコストと性能のバランスで選ぶ
サンプルのイメージはこんな感じです(疑似コード)。
$client = OpenAI::client(env('OPENAI_API_KEY'));
// 事前にPDFをファイルAPIにアップロード済みとする
$response = $client->responses()->create([
'model' => 'gpt-5.1',
'input' => [[
'role' => 'user',
'content' => [
[
'type' => 'input_file',
'file_id' => $fileId, // アップロード済みPDF
],
[
'type' => 'input_text',
'text' => 'このPDFは日本語の請求書です。次のJSONスキーマに従って項目を抽出してください。...',
],
],
]],
]);
$json = $response['output'][0]['content'][0]['json'] ?? null;
Laravel側では、このJSONをそのままEloquentモデルにマッピングすれば、
**「PDF→構造化データ」**がきれいにつながります。
3-4. 第3位:Claude 3.5 Sonnet(Anthropic)
こんな人向け
- すでにAWS BedrockやClaudeを触っている
- 図やチャートを含むPDFの要約・解説を作りたい
- 日本語の長文要約が多めで、「読解の上手さ」を重視したい
Claude 3.5 Sonnetは、Anthropicの高性能モデルで、
PDF+画像をまとめて理解し、「文章+図表」の関係性をとらえた要約や説明を生成するのが得意です。
Bedrockのドキュメントでも、PDFをバイナリで渡して要約する例が紹介されており、
実際に「PDFの内容を抽出して比較する」といった高度な利用例も確認されています。
ただし、
- 視覚解析として扱えるのは概ね100ページ程度まで
- リクエストあたりのファイルサイズ上限(32MBなど)がある
といった制限もあるため、超大規模なPDF群よりは、「中〜大サイズのドキュメントを丁寧に読む」用途に向く印象です。
Laravelからの利用イメージ
- AWS SDK for PHP経由でBedrock Runtimeを叩く
- PDFバイト列を
documentとして渡し、指示テキストを同じメッセージに含める - BedrockのConverse APIを使えば、テキスト・画像・PDFの同時プロンプトも可能
Claudeは「指示に対する文章品質」がとても高いので、
- 契約書の要点を、非エンジニア向けドキュメントに起こす
- 社内稟議用の説明資料を自動生成する
といった、人間が読みやすい文章生成で特に力を発揮します。
4. Laravelでのおすすめ組み合わせパターン
ここまでで「単体としてのランキング」は把握できました。
次は、実際のLaravelプロジェクトでどう組み合わせるか、代表的な3パターンを整理します。
4-1. パターンA:GCPオールインワン構成(精度最重視)
構成
- テキストPDF:
spatie/pdf-to-text(pdftotext) - 画像PDF:Google Cloud Vision OCR(必要に応じてDocument AI)
- LLM:Gemini 1.5 / 2.5 Pro
向いているケース
- 新規サービスで、クラウドベンダーを自由に選べる
- 日本語PDFの量・種類が多く、とにかく精度を優先したい
- Google WorkspaceやDriveとの連携が欲しい
ざっくり処理フロー
- LaravelがPDFを受け取り、Cloud Storageへ保存
- Cloud Run(もしくはCloud Functions)がトリガーされ、
- テキストPDF判定
- 画像PDFであればVision OCRを実行
- 得られたテキスト+メタ情報をGeminiに投げ、
- 指定スキーマに沿ったJSONを返してもらう
- 結果をFirestore / Cloud SQLへ保存し、Laravel側の画面で表示
メリット
- 一気通貫でGCP内に閉じられる
- Geminiの超ロングコンテキストで、「PDF+補足資料一式」をまるごと投げる設計がしやすい
4-2. パターンB:Azure+OpenAI構成(マイクロソフト寄り)
構成
- テキストPDF:
spatie/pdf-to-text - 画像PDF:Azure AI Vision Read + Document Intelligence
- LLM:Azure OpenAI 上の GPT-5.1 / GPT-4.1
向いているケース
- 社内が既にAzure / Microsoft 365で統一されている
- 将来的にオンプレ or Azure Stack HCIなども視野にある
- Power PlatformやLogic Appsとも連携したい
ざっくり処理フロー
- Laravel(Azure App Serviceなど)から、PDFをBlob Storageへ保存
- Logic Apps or FunctionsがOCRを実行(Read / Document Intelligence)
- 抽出結果JSONをAzure OpenAI(GPT-5.1など)に投げ、構造化・要約
- 結果をSQL Database / Cosmos DBへ保存し、Laravelから参照
メリット
- Azureポータル上でフローを可視化しやすく、運用チームにも説明しやすい
- cognitive+LLMをすべてAzure内に閉じられるので、ガバナンス面でも説明しやすい
4-3. パターンC:OSS+OpenAI or Claude構成(コスト最優先)
構成
- テキストPDF:
spatie/pdf-to-text - 画像PDF:Tesseract(+必要ならPaddleOCR)
- LLM:GPT-5.1系 or Claude 3.5 Sonnet(Bedrock経由)
向いているケース
- まずはPoCや小規模サービスで動かしてみたい
- クラウドOCRの従量課金を抑えたい
- サーバにパッケージをインストールする自由度がある
ざっくり処理フロー
- Laravelサーバに
tesseractを導入し、キューからCLIで呼び出す - 抽出テキストをLLMに渡して項目抽出・要約
- 認識精度がボトルネックになってきたら、OCR部分だけクラウドに差し替える
メリット
- 少量トラフィックなら、クラウドOCRの従量課金より安く済みやすい
- 構成はそのままに、「Tesseract → Vision API」など段階的な移行がしやすい
5. 実装時にハマりやすいポイントと対策
最後に、Laravel実装でよくつまずくポイントと、その対策をまとめておきます。
5-1. 「まずOCRの出来をチェックしてからLLMへ流す」
LLM側をどれだけ頑張っても、元のテキストがボロボロだとどうにもならないので、
- 1ページごとに「漢字/ひらがな比率」や「文字化けパターン」を簡易チェック
- 一定以上ノイズが多いページは、OCR再実行 or 別エンジンにフォールバック
- 「OCR品質のスコア」をDBに持っておく(あとで再処理できるように)
といった仕組みを入れておくと安心です。
Laravelでは、Queueジョブの中でOCR→品質チェック→OKなら次のジョブへ、
といったパイプライン型のJobチェーンにしておくと、再実行もしやすくなります。
5-2. 長いPDFは素直にチャンク分割+ID付け
LLMのコンテキストが増えてきたとはいえ、
「数百ページのPDFを丸ごと一発で投げる」のは、コスト面・失敗時のリトライ面であまり現実的ではありません。
おすすめは、
- PDFをページ単位/論理ブロック単位で分割
- 各チャンクに一意なID(
document_id,chunk_indexなど)を付与 - LLMには「このチャンク単体で完結するタスク」をさせる
- 後でアプリ側でマージ・集約する
という構成です。
Laravelでは、Eloquentモデルで
pdf_documentspdf_chunksextraction_results
のようなテーブルを切ると、ジョブ設計がだいぶ楽になります。
5-3. JSONスキーマは「固定」してからLLMに渡す
項目抽出を安定させるには、
- 「請求書」ごとにバラバラなJSONを生成させない
- あらかじめ固定のスキーマ(例:
invoice_number,issue_date,total_amount,line_items[]…)を定義しておく
ことが重要です。
LLMには、プロンプトの中で
- 必須項目/任意項目
- 型(文字列・数値・日付)
- 「見つからないときは
nullを入れる」ルール
を明示しておき、
バリデーションはLaravel側(FormRequest や Validator)で行うようにすると、
後続の処理も安定します。
6. 最後に:結局どれを選べばいい?
ここまでかなり細かく見てきたので、「で、何を選べばいいの?」を簡単にまとめます。
6-1. OCRについて
- 精度最重視(クラウドOK)
- 第1候補:Google Cloud Vision OCR + Document AI
- 第2候補:Azure AI Vision Read + Document Intelligence
- オンプレ/ライセンス前提でもOK
- ABBYY FineReader / Vantage
- コスト最優先・まずは検証
- Tesseract(+必要に応じてPaddleOCR)
- R&D枠/自前GPUがある
- DeepSeek-OCR
6-2. LLMについて
- PDFのレイアウト理解&超ロングコンテキスト重視
- 第1候補:Gemini 1.5 / 2.5 Pro
- 構造化出力・指示追従・エコシステム重視
- 第2候補:GPT-5.1系(GPT-5.1 / GPT-5 / GPT-4.1)
- 図表を含む長文の要約・解説を綺麗にしたい
- 第3候補:Claude 3.5 Sonnet
6-3. Laravelプロジェクトでの具体的な指針
- 小さく始めるなら
→spatie/pdf-to-text+ Tesseract + GPT-5.1系 or Claude - 最初からプロダクション品質を狙うなら
→ GCP構成(Vision+Gemini)、または Azure+OpenAI 構成 - 将来ガチ運用になりそう、と感じたら
→ OCRとLLMを別マイクロサービスに分けておく(LaravelはワークフローとUIに集中)
7. 参考リンク(公式&技術情報)
最後に、本文中で触れた主なサービスの公式ドキュメントなどを、
あとから辿りやすいようにまとめておきます。
OCR関連
- spatie/pdf-to-text GitHub
- Google Cloud Vision API 公式ドキュメント
- Google Cloud Document AI ドキュメント
- Azure AI Vision / Document Intelligence ドキュメント
- ABBYY Vantage 製品概要
- Tesseract OCR GitHub
- PaddleOCR GitHub
- DeepSeek-OCR 比較記事
- Amazon Textract 公式FAQ
LLM・PDF処理関連
- OpenAI File Inputs Guide(PDF入力)
- OpenAI GPT-5.1 モデル概要
- GPT-4.1 紹介記事
- Gemini 1.5 Pro 公式ブログ
- Claude 3.5 Sonnet 紹介ページ
- Bedrockでのドキュメント処理(Qiita)
- ChatGPTのPDF読み込み・分析に関する解説記事
- ChatGPT vs Gemini:PDF・スプレッドシート分析
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ここで挙げた組み合わせの中から、ご自身のプロジェクト条件(クラウド縛り・予算・既存インフラ)に合わせて1つ選んでいただければ、
「LaravelでPDFを読むなら、まずはこの構成で行こう」という腹づもりがだいぶ固まるはずです。
あとは、実際に少量のPDFでミニベンチマークを回してみて、
社内の文書に対してどこまで精度が出るかを確認してあげると安心ですよ。
