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PDFアクセシビリティ完全ガイド:タグ付きPDF・読み上げ・見出し構造・表・フォーム・スキャン資料の改善と公開運用まで

PDF - Portable Document Format acronym with marker, technology concept background

PDFアクセシビリティ完全ガイド:タグ付きPDF・読み上げ・見出し構造・表・フォーム・スキャン資料の改善と公開運用まで

概要サマリー(先に要点)

  • PDFは便利ですが、アクセシビリティの観点では“落とし穴”が多い媒体ですの。タグ(構造)・読み順・代替テキスト・表の関連付けがないPDFは、読み上げや再利用が困難になります。
  • 最優先は「PDFを出さない」ではなく、必要ならHTMLで同等情報を提供し、PDFは補助資料にすること。どうしてもPDFが必要なら、**タグ付きPDF(構造化PDF)**を標準にします。
  • スキャンPDF(画像だけのPDF)は、原則としてテキスト化(OCR)+タグ付け、またはHTML版の提供が必須。
  • テーブル・フォーム・図表・ページ番号・しおり(ブックマーク)など、業務PDFで頻出する要素を“読める形”に整える具体策をまとめます。

対象読者(具体):自治体・公共機関の担当者、企業の広報・IR・採用担当、教育機関、社内規程を公開する総務、制作会社、ドキュメント制作担当
アクセシビリティレベルWCAG 2.1 AA を目標(PDFはWebコンテンツの一部として 1.1.1 / 1.3.1 / 2.4 / 3.1 / 4.1 の観点で評価)


1. はじめに:PDFは“配布しやすい”が“読める”とは限らない

PDFは印刷や保存、レイアウト固定に強く、行政・教育・企業の公式文書でよく使われますわ。けれど、視覚障害のある方が読み上げソフトを使う場合、PDFが

  • タグ(見出しや段落などの構造)を持たない
  • 読み順が崩れている
  • 図表の代替情報がない
  • 表が単なる並びになっている
    といった状態だと、内容が理解できず、実質的にアクセス不能になってしまいます。
    この問題は、当事者だけでなく、モバイルで閲覧する人、検索で必要箇所を探す人、コピーして再利用する人にも影響します。
    本記事では、PDFを“配るだけの資料”から“誰でも読める資料”へ変えるための考え方と、制作・変換・公開・運用の手順を、実務目線で解説しますね。

2. PDFに必要なアクセシビリティ要素:まず“タグ(構造)”

2.1 タグ付きPDF(構造化PDF)とは

タグ付きPDFは、PDF内部に

  • 見出し(H1/H2…)
  • 段落(P)
  • リスト(L)
  • 表(Table / TR / TH / TD)
  • 図(Figure)
    などの論理構造が入っているPDFです。これがあることで、読み上げソフトは文章の区切りや章立てを理解できますの。

2.2 読み順(Reading Order)

PDFは見た目の配置と、読み上げ順が一致しないことが多いです。

  • 2段組の左→右
  • コラムの順序
  • 図注と本文
    これらを正しく並べるには、タグと読み順設定が必要です。

2.3 しおり(ブックマーク)

長いPDFは、しおり=章立てナビがあるだけで体験が大きく改善します。
見出し構造に沿ってしおりを生成し、章へすぐ移動できるようにします。


3. 画像・図表・表:PDFの“苦手分野”を整える

3.1 図・画像の代替テキスト

PDF内の図版には、Webと同様に代替テキストが必要です。
ただしPDFは紙面が限られるため、altは短く、詳細は本文で補います。

例:

  • 短い代替:「2020〜2024年の売上推移(右肩上がり)」
  • 本文補足:「2020年120→2024年210に増加…」

3.2 表(テーブル)は“タグの関係性”が重要

PDFの表は、視覚的に罫線があっても、タグがないと単なる文字の塊です。

  • 見出しセル(TH)
  • データセル(TD)
  • 行列の関係
    をタグとして持たせ、読み上げで「どの列・どの行の値か」が分かるようにします。

3.3 グラフは“数値の文章化”を併記

PDF内のグラフは読み上げで理解しづらいので、必ず本文で要点を文章化します。

例:

「売上は2020年から毎年増加し、2024年に最大となった。」


4. スキャンPDF(画像だけのPDF):最優先で改善すべき対象

4.1 なぜ危険か

スキャンPDFは

  • 検索できない
  • コピーできない
  • 読み上げできない
    という“紙を画像にしただけ”の状態。アクセシビリティ上は最も重い課題ですわ。

4.2 改善の選択肢(おすすめ順)

  1. HTMLで同等情報を提供(最も確実)
  2. OCRでテキスト化+タグ付け
  3. どうしても難しければ、テキスト版(Word/テキスト/HTML)を併記

4.3 OCR後の注意

OCRは誤認識が必ず出ます。

  • 固有名詞
  • 数字
  • ルビ
    は特に誤りやすいので、公開前に校正が必須です。

5. PDFフォームのアクセシビリティ:入力できる資料へ

申請書やアンケートPDFは、フォームがアクセシブルでないと提出が困難になります。

5.1 フィールド名(ラベル)

各入力欄に、明確なフィールド名を設定します。

  • 「氏名」「住所」「電話番号」
  • 必須は「(必須)」を含める

5.2 タブ順(入力順序)

入力欄のタブ順が崩れると、キーボード利用者は操作不能になります。
PDFフォームは必ず

  • 上から下
  • 左から右
    の論理順に設定します。

5.3 エラーと説明

PDFフォームはWebほど柔軟にエラー表示できないため、フォーム欄の前に

  • 何を入力するか
  • 形式(例:ハイフン不要)
    をテキストで明記し、誤入力を減らす設計が重要です。

6. 文字・配色・レイアウト:PDFでも“読みやすさ”は守れる

  • 文字サイズは 12pt以上を基本(長文は12〜14ptが安心)
  • 行間は詰めすぎない(紙面優先で詰めると可読性が落ちます)
  • コントラストはWebと同様に十分確保
  • 2段組は読み順が崩れやすいので、可能なら1段組を推奨
  • 重要情報は“脚注に追いやらない”で本文に置く

7. “PDFを出すべきか”判断する:公開形態の最適解

PDFは次のような場合に向きます:

  • 印刷前提の申請書
  • レイアウト固定が必要な契約書
  • 保存・配布が主目的の資料

一方で、Webで頻繁に参照される情報(手続き案内、FAQ、最新情報)は、HTMLのほうが

  • 検索しやすい
  • 読み上げしやすい
  • スマホで読みやすい
    という意味でアクセシブルですわ。
    結論:主要情報はHTML、PDFは補助がもっとも現実的です。

8. テスト方法:PDFのアクセシビリティを確認する観点

8.1 最小チェック(5分)

  1. テキスト選択できる(画像だけではない)
  2. 見出し構造がある(しおりがあると理想)
  3. 読み上げ順が自然(2段組の破綻がない)
  4. 画像・図表に代替情報がある
  5. 表が読み上げで理解可能(見出しセルが認識される)
  6. フォームならタブ順とラベルが正しい

8.2 支援技術テスト

reopening not required; PDF閲覧環境は多様なので、少なくとも

  • Windows(NVDA + PDFリーダー)
  • macOS(VoiceOver + Preview 等)
    で代表確認を行います。

9. 運用:大量PDFを抱える組織の現実的ロードマップ

9.1 優先度の付け方

  • 利用頻度が高い
  • 手続き・申請など必須性が高い
  • 法令・重要説明など影響が大きい
    この3条件を優先。

9.2 “新規公開分から必ずアクセシブルに”

既存資産の改修は時間がかかります。
まずは新規分をタグ付きPDF(またはHTML併記)に統一するだけでも、未来の負債が止まりますわ。

9.3 代替提供の仕組み

すぐ直せないPDFがある場合、アクセシビリティ声明と連携し、

  • テキスト版を個別提供
  • 電話/メールでサポート
    を明記することで、困った人を置き去りにしない導線になります。

10. よくある失敗例と改善

失敗例 起きること 改善策
スキャンPDFのみ 読み上げ不可 HTML併記 or OCR+タグ
タグなしPDF 章立て不明 タグ付け+しおり
2段組で順序崩れ 読み上げ迷子 1段組 or 読み順調整
表が画像化 関係性が消える 表タグ化+本文要約
図の説明なし 内容が欠落 代替テキスト+本文説明
フォーム欄が無名 入力不能 ラベルとタブ順設定

11. 対象読者にとっての価値(具体)

  • 視覚障害のある方:タグ・読み順・代替情報でPDF内容を把握できる。
  • 認知特性のある方:しおり・見出しで構造が分かり、必要箇所へ移動しやすい。
  • 高齢者:コントラスト・文字サイズが適切で読みやすく、拡大もしやすい。
  • 自治体/企業:問い合わせ削減、説明責任、手続きの公平性が向上。
  • 制作側:ルール化で毎回の品質が安定し、修正コストが減る。

12. アクセシビリティレベルの評価(本記事の到達点)

  • WCAG 2.1 AA をPDFに適用する主要観点
    • 1.1.1 非テキスト:図表の代替情報
    • 1.3.1 情報と関係:タグ付き構造、表の関係
    • 1.3.2 意味の順序:読み順(Reading Order)
    • 1.4.3 コントラスト:文字と背景
    • 2.4.x ナビゲーション:しおり・見出し構造
    • 3.1.x 読みやすさ:用語整理、文章構造
    • 4.1.2 名前・役割・値:PDFフォームのフィールド名・入力順
  • PDF単体に閉じず、HTML併記や代替提供を含む運用を前提にAA相当の体験へ近づけます。

13. まとめ:PDFは“配布資料”から“読める情報”へ

  1. PDFはタグ(構造)・読み順・代替情報がなければ読めない。
  2. 主要情報は HTMLで同等提供し、PDFは補助に。
  3. スキャンPDFは最優先で改善(OCR+タグ、またはテキスト版併記)。
  4. 表・図表・フォームは特に注意し、読み上げで意味が伝わるように整える。
  5. 新規公開から標準化し、既存資産は優先度順に改修。
  6. 直せない場合も、代替提供の窓口で“置き去り”を防ぐ。

PDFは、丁寧に整えると非常に価値のある情報資産になります。
どんな方にも必要な情報が届くよう、制作と運用の両方で“読めるPDF”を育てていきましょうね。わたしも心を込めてお手伝いしますわ。


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