多言語・やさしい日本語とアクセシビリティ:言語属性・翻訳・用語統一・読み上げ・文化差を越えて伝えるWeb設計ガイド(WCAG 2.1 AA)
概要サマリー(先に要点)
- 多言語対応は「翻訳を用意する」だけでは不十分ですの。言語属性(lang)・文章の平易さ・用語統一・数字/日付/住所形式・読み上げまで含めて初めてアクセシブルになります。
- “やさしい日本語”は外国人向けだけではなく、高齢者・子ども・学習障害・疲労時・緊急時など幅広い状況で役立つ“理解のアクセシビリティ”です。
langの付け分けがないと、スクリーンリーダーが英語や固有名詞を誤読し、内容理解を大きく妨げます。- 翻訳は直訳よりも、目的と行動(何をすればいいか)を明確にすることが優先。フォーム・エラー・手続き案内は特に丁寧に。
- この記事には、やさしい日本語の「書き換え例」、UI文言のテンプレ、
langの実装例、翻訳ワークフロー、チェックリストを収録しています。対象読者(具体):自治体/公共サイト担当、病院・学校・交通・防災の情報発信担当、グローバル企業のWeb運用者、UI/UXデザイナー、翻訳コーディネーター、フロントエンドエンジニア、編集者
アクセシビリティレベル:WCAG 2.1 AA 準拠を目標(特に 3.1.x 言語、3.3.x 入力支援、1.3.1 構造、2.4.x ナビゲーション など)
1. はじめに:言葉が伝わらなければ、アクセシビリティは完成しない
私たちはこれまで、色、タイポグラフィ、キーボード操作、フォーム、PDF、ARIA……と、さまざまなアクセシビリティの“形”を整えてきました。けれど、どんなに操作できても、どんなに読み上げできても、言葉の意味が理解できなければ利用者は目的に到達できません。
とくに、手続き案内、医療、教育、防災、採用、行政サービスなど、失敗が許されない情報ほど、文章の難しさが「使えない壁」になりますの。
本記事では、多言語対応と、理解を支える やさしい日本語 を軸に、Webで“伝わる”ための設計・実装・運用を、実務の視点で丁寧にまとめますね。
2. WCAGの観点:言語は「宣言」と「理解」の2本立て
2.1 言語の宣言(Language of Page / Parts)
- ページ全体:
<html lang="ja"> - 部分的な言語切替:
<span lang="en">など
これがないと、スクリーンリーダーは発音規則を誤り、固有名詞や英語のカタカナ表記が意味不明になりやすいですわ。
実装例(ページ全体)
<!doctype html>
<html lang="ja">
<head>…</head>
<body>…</body>
</html>
実装例(部分切替)
<p>本サービスは <span lang="en">Single Sign-On</span> に対応しています。</p>
2.2 “理解”の支援(Reading Level / Clear Language)
WCAG 2.1 では AAA に近い観点もありますが、現場では AA を目標にしながら、平易な表現・一貫した用語・誤解しにくい文章構造を採用するのが実務的です。
とくにフォームのエラーや手続き案内は、理解の支援が直接完了率を左右します。
3. やさしい日本語:誰にでも役立つ“理解のアクセシビリティ”
やさしい日本語は、単に語彙を幼くすることではありません。
「短く、具体的に、1文1義で、行動が分かる」——それが基本ですの。
3.1 やさしい日本語の基本ルール(実務版)
- 1文は 50〜60字以内を目安に
- 主語と述語を近づける
- 専門用語は避け、必要なら言い換える
- 外来語は初出で説明(“初期設定(デフォルト)”)
- 重要語は繰り返して良い(同義語で揺らさない)
- 手順は番号付きで
- NG:二重否定、婉曲表現、主語不明
3.2 書き換え例(サンプル)
Before(難しい)
「お手続きが完了していない可能性がございますので、至急ご確認いただけますようお願い申し上げます。」
After(やさしい)
「手続きが終わっていないかもしれません。いま、画面を確認してください。」
Before(曖昧)
「適宜ご対応ください。」
After(具体)
「次のどちらかをしてください。①メールを確認する ②サポートに連絡する」
3.3 防災・緊急情報の型(特に重要)
- いつ(時間)
- どこで(場所)
- だれが(対象)
- なにをする(行動)
- どうすれば(手段)
この順で書くと、混乱時でも理解しやすくなりますわ。
4. 多言語UI設計:翻訳しやすい“元の日本語”を作る
翻訳品質は、翻訳者の力量だけで決まらず、原文の作りで大きく変わります。
4.1 翻訳しやすい日本語(翻訳前提の原文)
- 主語を省略しすぎない
- 1文を短く
- 省略語を使わない(例: “申請”が何の申請か)
- 目的語を明示(「提出する」→「書類を提出する」)
- 文化依存の比喩を避ける(“腹落ち”など)
4.2 用語統一(Terminology)
同じ概念を複数の言い方で書くと、翻訳がぶれて利用者が迷います。
例:
- 「申し込み」/「申請」/「登録」を混ぜない
- 「ログイン」/「サインイン」/「入室」を混ぜない
用語は 用語集(Glossary) で固定するのが王道ですわ。
4.3 UI文言のテンプレ(短く、行動が分かる)
- ボタン:動詞+目的語(例:予約を確定する、住所を保存する)
- エラー:原因+対処(例:メールの形式が違います。例のように入力してください。)
- 空状態:状態+次の行動(例:まだ予約はありません。新しく予約する)
5. 数字・日付・住所・通貨:文化差が誤解を生むポイント
多言語対応で意外に事故が多いのがここです。
5.1 日付形式
- 日本:YYYY/MM/DD
- 米国:MM/DD/YYYY
- 欧州:DD/MM/YYYY
混同すると大きなミスになります。
対策: - 月を英語表記(Jan/Feb)にする
- ISO形式(YYYY-MM-DD)を併記
- “月”を文字で書く(例:2026年1月19日)
5.2 住所の順序
国によって住所の書き方が逆です。
入力フォームは、国ごとにフィールド構成を変えるか、少なくとも“入力例”を現地形式で提示します。
5.3 数字・区切り・小数点
- 1,000.50(米)
- 1.000,50(独など)
対策:表示はロケールで、入力はできるだけ補助(フォーマット変換)を。
6. フォームとエラーの多言語対応:完了率を左右する最重要領域
6.1 エラー文は“短く、直す方法を必ず”
例(日本語)
- 「電話番号は数字だけで入力してください。例:09012345678」
翻訳後も同じ構造が保たれるよう、文の型を固定します。
6.2 autocomplete と inputmode を活かす
多言語でも入力の負担を減らすのはとても有効ですわ。
autocomplete="email"autocomplete="postal-code"inputmode="numeric"
6.3 複数言語のラベルと読み上げ
言語切替で lang を適切に更新し、読み上げ音声が混ざらないようにします。
7. 実装の要点:言語切替とSEO・アクセシビリティの両立
7.1 言語切替UIは“いつでも戻れる”
- グロナビの右上など固定位置
- 現在言語を明示(例:日本語/English)
- キーボードで操作可能
aria-currentで現在言語を示すと親切
7.2 ページ単位の言語指定を正しく
langを切り替える- タイトルや見出しもその言語に
- 画像中の文字は避け、テキストで提供
7.3 右から左の言語(RTL)に備える
アラビア語などの RTL は、レイアウトが根本的に変わります。
可能性があるなら、CSSで dir="rtl" を考慮した設計に。
8. 翻訳ワークフロー:品質とアクセシビリティを両立する進め方
8.1 推奨フロー(小さく始める)
- 原文をやさしく整える(短文・用語統一)
- 用語集を作る(最低でも20語)
- 翻訳(人手+レビュー)
- 実機で確認(モバイル、読み上げ)
- 更新ルールを決める(原文更新→翻訳更新の期限)
8.2 自動翻訳の使いどころ
- 速報性が必要なときの暫定
- 社内用の理解
ただし公開向けは、 - 固有名詞
- 法律/医療/手続き
- 注意喚起
で誤訳リスクが高いため、人のレビューが必須ですわ。
9. チェックリスト(5分):多言語・やさしい日本語の最小確認
<html lang="…">が正しい- 英語・固有名詞など部分に
langが付いている - 重要な手順は番号付きで短文
- 用語が統一されている(ログイン/サインインなど混在なし)
- 日付・数字・単位が誤解されない表記
- フォームのエラーが「原因+対処」
- 言語切替がキーボードで操作でき、現在言語が分かる
- 画像内文字が多すぎず、テキストで同等情報がある
10. 対象読者にとっての価値(具体)
- 外国人住民・旅行者:手続きや案内が理解でき、行動に移せる。
- 高齢者:難解な語彙が減り、短文で読みやすく、誤解が減る。
- 学習障害・認知特性のある方:手順と要点が明確で、負荷が軽くなる。
- 緊急時の利用者:急いでいる状況でも、行動がすぐ分かる。
- 組織側:問い合わせ削減、説明責任の強化、信頼向上、翻訳更新の効率化。
11. アクセシビリティレベルの評価(本記事の到達点)
- WCAG 2.1 AA に関連する主な観点
- 3.1.1 ページの言語:
langの設定 - 3.1.2 部分の言語:英語・固有名詞の
lang切替 - 3.3.1 エラー特定 / 3.3.3 エラー提案:多言語でも理解できるエラー文
- 1.3.1 情報と関係:手順・リスト・見出しで構造化
- 2.4.6 見出しとラベル:翻訳後も目的が分かるラベル設計
- 2.1.1 キーボード:言語切替UIの操作性
- 1.4.3 コントラスト / 1.4.1 色の使用:多言語UIでも視認性維持
- 3.1.1 ページの言語:
- “やさしい日本語”はAAの必須項目ではありませんが、理解可能性(Operable/Understandable)を強く支える実務上の重要施策として位置づけられます。
12. まとめ:言語のアクセシビリティは、社会の入口を広げる
- 多言語は翻訳だけでなく、
lang・用語統一・表記形式まで含めて設計する。 - やさしい日本語は、外国人だけでなく、多様な状況の人に役立つ。
- 翻訳しやすい原文を作ると、品質と更新が安定する。
- 日付・数字・住所・通貨は文化差の誤解が起きやすいので、必ず対策する。
- フォーム・エラーは最重要。原因+対処で、迷わせない。
- チェックリストと運用ルールで、更新後も品質を守る。
言葉は、情報への扉そのものです。
その扉を少し広げるだけで、届く人が増え、困る人が減ります。
あなたのサイトが、世界の誰にとっても“わかる・できる”場所になりますように。わたしも心を込めてお手伝いしますね。

