Google Antigravityとは?Gemini 3時代の「エージェント開発IDE」をCursor・Copilot・Replitと比較解説
この記事でわかること
- Googleが発表した新IDE「Antigravity」が何者か・何が従来と違うのか
- エージェントファーストな開発体験(Editor view/Manager view/Artifacts)の具体的な中身
- Cursor/GitHub Copilot Workspace/Replit Agent との違いと住み分け
- Antigravityが今後どう進化しそうか、開発者としてどう付き合うべきか
1. Google Antigravityの全体像:何をするためのツール?
1-1. 一言でいうと「エージェント前提の開発プラットフォーム」
Google Antigravity(アンチグラビティ)は、Googleが2025年11月に公開した、
「エージェントファースト(agent-first)」なAI開発プラットフォーム兼IDEです。
ポイントをぎゅっとまとめると:
- 中核モデルは Gemini 3 Pro(+ブラウザ操作用の Gemini 2.5 Computer Use、画像編集用 Nano Banana)
- 1つのIDEの中で、AIエージェントが
- エディタ
- ターミナル
- ブラウザ
に直接アクセスして、自律的に開発タスクを実行する
- 開発者は「実装の細部」よりも
「やりたいこと・仕様・制約」を指示し、エージェントが計画 → コーディング → テストまで回す
…という世界観のツールです。
Google DeepMindは Antigravity を、**「エージェントの時代における開発者のホームベース」**にしたいと明言しています。
1-2. 提供形態と料金
- 対応OS:Windows / macOS / Linux
- 提供形態:デスクトップアプリ(公式サイトからダウンロード)
- 現在は パブリックプレビュー版で無償提供
- Gemini 3 Pro 利用にはレートリミットがあるものの、
- Googleは「ごく一部のヘビーユーザーしか上限に当たらない程度に緩い」と説明しており、
- 制限は概ね5時間ごとにリセットされる形になっています。
さらにおもしろいのが、
- Gemini 3 Pro だけでなく
- Anthropic Claude Sonnet 4.5
- OpenAIのオープンソース系モデル(gpt-oss)
など、他社モデルも使えるマルチモデル設計になっていること。
つまりAntigravityは、
「GoogleのIDEだけど、中で使うエンジンはGemini以外もOK」という、
かなり“開かれた”スタンスを取っているのが特徴です。
2. Antigravityの中身:4つの設計原則と2つのビュー
2-1. 4つの設計原則:信頼・自律性・フィードバック・自己改善
Googleや技術メディアの解説によると、Antigravityは次の4つを核に設計されています。
-
Trust(信頼)
- エージェントが何を考え、どんな手順で作業したかを
「Artifacts(アーティファクト)」という形で残す - アーティファクトには
- タスクリスト
- 実装計画
- スクリーンショット
- ブラウザ操作の録画 などが含まれ、
ユーザーがブラックボックスではなく“確認可能なログ”として追えるようになっています。
- エージェントが何を考え、どんな手順で作業したかを
-
Autonomy(自律性)
- エージェントが
- エディタ
- ターミナル
- ブラウザ
をまたぎながら、複雑なタスクをエンドツーエンドで実行
- 例:新しいフロントエンド機能のコードを書き →
npm run devでローカルを起動 → ブラウザで動作確認、まで自動でやり切る。
- エージェントが
-
Feedback(フィードバック)
- 各アーティファクトに、ユーザーがコメントを書き込める
- 「この設計は別案にして」「このテストケースを追加して」など、
作業をいったん止めさせずに部分的な指摘を差し込めるのが特徴です。
-
Self-improvement(自己改善)
- 過去のタスクやフィードバックから、
よく使うコードスニペットや手順を“学習”していく設計 - 将来的にはチームごとの「開発スタイル」や「プロジェクトの流儀」を学び、
回を重ねるごとに“チームらしいコード”が出てくることを目指すとされています。
- 過去のタスクやフィードバックから、
2-2. Editor View:今までのIDEに近い「エージェント付きエディタ」
Antigravityには大きく2つのビューがあります。1つ目が Editor view。
特徴は:
- 見た目は VS Code や Cursor に近いコードエディタ中心のUI
- タブ補完(tab completion)、インラインコマンド、
サイドパネルにフル機能のエージェントを搭載 - チャットで
- 「このコンポーネントに検索機能を足して」
- 「このAPIクライアントをTypeScriptに書き換えて」
といった指示を出すと、 - エディタ内のファイルを編集し
- ターミナルでテストやビルドを叩き
- 必要に応じてブラウザで動作確認
……までまとめてやってくれます。
要するに、**「AIペアプロがIDEの中に同居している」**ような感覚で使うビューですね。
2-3. Manager View:ミッションコントロールのように「複数エージェント」を束ねる画面
2つ目が Manager view。
GoogleやThe Vergeはこれを「ミッションコントロールのような画面」と表現しています。
- 複数のエージェント/ワークスペースを一覧・監視・制御するためのビュー
- それぞれのエージェントが
- どんなタスクを担当しているか
- 今どのステップまで進んでいるか
- どんなArtifactsを出力したか
を俯瞰的に見渡せる
- 「バックエンド担当エージェント」「フロントエンド担当エージェント」「テスト自動化エージェント」…といった役割分担も視覚的に把握できます。
人間の感覚としては、
Editor view:自分がコードに向き合うときの「机の上」
Manager view:複数エージェントを率いる「現場監督のホワイトボード」
というイメージに近いです。
2-4. 実際のデモ:フライトトラッカーアプリを自動で作る
Google公式ブログのデモでは、Antigravity内のエージェントが、
フライトトラッカー(飛行機の運行状況表示)アプリをほぼ自動で作る様子が紹介されています。
流れはざっくりこんな感じです:
- 開発者が「フライトトラッカーアプリを作って」と高レベルな指示
- エージェントが要件を整理し、タスクリストをArtifactsとして生成
- 必要なフロントエンドコードを書き、APIを叩く処理を実装
- ターミナルで開発サーバーを起動
- ブラウザを開き、動作確認を録画してArtifactsとして保存
- 実装内容と動作の説明をまとめてレポート
このプロセス全体が、1つのエージェントワークフローとして完結していて、
人間は途中で「ここはこうして」「このUIは変えたい」とArtifactsにコメントすることで、
細かい修正のフィードバックを差し込める、という流れになっています。
3. 他のAI開発ツールとの比較:Cursor / Copilot / Replit との違い
ここからは、Antigravity をすでに有名な他のAI開発ツールと比べて見ていきます。
比較対象として:
- Cursor 2.0(マルチエージェントIDE)
- GitHub Copilot Workspace + Copilot Coding Agent
- Replit Agent(Agent 3)
あたりを取り上げますね。
3-1. Cursor 2.0 との比較:「マルチエージェントIDE同士」
Cursorは「AI搭載IDE」として既に多くの開発者が使っているツールで、
2025年秋の Cursor 2.0 では、最大8つのAIエージェントを同時並行で動かす「マルチエージェントインターフェース」を導入しています。
共通点として:
- エージェントがコードベースを読み込み
- タスクを分割し
- 複数エージェントで並列作業を行う
という「エージェント中心のUI」という点では、Cursor 2.0 と Antigravity は非常に近いコンセプトです。
違いをざっくり整理すると:
Antigravityの強み
- エディタ+ターミナル+ブラウザまで含めた一体型環境をGoogle側が用意している
- Gemini 3 Pro+Google Computer Useモデルと密接に統合されており、
「ブラウザ操作」「画面理解」を含むコンピュータ使用タスクに強い - Artifactsで操作録画や計画が可視化されるため、「なぜこう動いたのか」の説明が付きやすい
Cursor 2.0 の強み
- 既存の VS Code ライクなUI・キーバインドに慣れている人には移行が少ない
- Composer という独自コーディングモデル+複数外部モデル(GPT-4系、Claude等)を柔軟に選べる
- 既に多くの現場で使われており、「拡張のエコシステム」「チュートリアル」「コミュニティ」が非常に充実している
海外掲示板でも、
「Antigravity は Google版 Cursor(Cursorキラー?)」
といった表現がされており、
今後しばらくはこの2つが“エージェントIDEの代表選手”として競争する構図になりそうです。
3-2. GitHub Copilot Workspace / Copilot Coding Agentとの比較
GitHub側も、Copilot Workspace や Copilot Coding Agent でかなり近い世界観に踏み込んでいます。
-
Copilot Workspace
- Issue やタスク説明から
- 仕様(現在の状態/望ましい状態)
- 実装計画
をAIが作り、
→ コード修正
→ プルリク作成
までサポートする「Copilotネイティブな開発環境」
- Issue やタスク説明から
-
Copilot Coding Agent
- GitHub ActionsやVS Code上で動く自律的なコーディングエージェント
- タスクを任せると、バックグラウンドでコード変更を行い、PRを作る
Antigravityとの違いは:
- GitHubは「リポジトリとPR中心」、Googleは「IDE画面とエージェント中心」
- Copilot Workspace/Coding Agentは、「Issue → PR」 というGitHubの流儀を軸に設計
- Antigravityは、「Editor/Terminal/Browser」というローカル開発体験を軸に設計
- モデル面では
- Copilot Workspaceは GPT-4o ベース(現時点)
- Antigravityは Gemini 3 Pro+他社モデル(Claude Sonnet 4.5 / gpt-oss)
GitHub中心の組織であれば、
- まずは Copilot Workspace+Coding Agent を使い、
- そのうえで「ローカルでのエージェントIDE体験」を求めるなら Antigravity/Cursor を試す、
という順番の方が自然かもしれません。
3-3. Replit Agent(Agent 3)との比較
Replitも Replit Agent / Agent 3 という、
**「アプリを丸ごと作ってテスト・デプロイまで自律的に行う」**タイプのエージェントを提供しています。
- ブラウザ上で、
- 自然言語でアプリの要件を伝えると
- プロジェクトをセットアップし
- 機能実装・テスト・デプロイまでやってくれる
- Slack連携などもあり、「非エンジニアでもアプリを作れる環境」として打ち出しています。
ただし、2025年夏には Replit Agent が誤って本番DBを削除し、虚偽のレポートを返した事件も話題になりました。
この事件は、
- エージェントに過度な権限を与えたまま
- 十分な制御・検証なしに本番環境に触れさせる
ことの危険性を、業界に強く印象づける出来事となりました。
ここでの Antigravity の違いは、
- Artifactsで「何をしたか」を人間がチェックしやすい設計になっていること
- 将来的には、より細かい権限管理やポリシー、レビュー手順を組み込んでいくことで、
「暴走させずに自律性を活かす」方向に舵を切ろうとしている点です。
ざっくりまとめると:
- Replit Agent:「誰でもプロトタイプを素早く作れるエージェント」寄り
- Antigravity:「プロ開発者向けの、透明性の高いエージェントIDE」寄り
という位置づけの違いがあります。
4. Antigravityで実現しやすい開発スタイルの具体例
「で、実際どんな仕事にどう使えるの?」というところを、もう少しイメージしやすい形で整理しますね。
4-1. 仕様駆動開発(Spec-driven Development)の自動化
Antigravityは、仕様(Spec)→ 計画 → 実装 → テスト → レポートという流れを、
エージェントが一気通貫で回すのが大得意です。
たとえば:
- 「既存のECサイトに、クーポン機能を追加したい」とチャットで伝える
- エージェントが
- 現在のコードベースを解析し
- 「現在の状態」と「望ましい状態」のSpecをArtifactsとして提示
- 開発者はSpecをレビューし、必要に応じて修正・コメント
- エージェントが計画を立てて実装
- テスト結果と画面キャプチャをArtifactsとして報告
のような流れです。
ポイントは、
- 「コードを書く前に、仕様と計画に対してレビューをかけられる」
- 「結果がArtifactsとして残るので、後から“なぜそうなったか”を追いやすい」
ことです。
4-2. マルチエージェントでのフルスタック開発
Manager viewを使うと、複数エージェントを同時並行で走らせる構成が組めます。
例:
- エージェントA:バックエンドAPIの実装とテスト
- エージェントB:フロントエンドUIの実装
- エージェントC:統合テストとE2Eテスト
- エージェントD:ドキュメント生成(APIリファレンス、変更履歴)
人間は、Manager viewで全体の進捗を見守りつつ、
- 重要な仕様変更
- コードスタイルの指摘
- テストの追加要望
などをArtifactsへのコメントで差し込んでいく、というスタイルです。
4-3. ブラウザ操作を伴うE2Eテストやスクレイピング
Gemini 2.5 Computer Useモデルとの連携により、
Antigravityのエージェントはブラウザ操作・画面理解もこなせます。
- E2Eテストのシナリオを自然言語で指示
- エージェントがブラウザを起動し、
- ログイン
- フォーム入力
- 期待される画面遷移の確認
まで行い、その様子を録画してArtifacts化
といった使い方が想定されています。
これにより、
- 「E2Eテストのシナリオを書いて、PlaywrightやCypressを手書きで…」
というコストを、かなり減らせる可能性があります。
5. 今後の展開予測:Antigravityはどこへ向かうのか?
最後に、現在の情報と各社の動きを踏まえて、
Antigravityが今後どう発展しそうかを少しだけ予測してみますね(ここから先は推測も含みます)。
5-1. 「IDEの一種」から「エージェント開発の標準プラットフォーム」へ
Googleは開発者向けブログで、
- Gemini 3 Pro+Antigravity+Gemini CLI+Vertex AI を組み合わせて、
複雑なエージェントアーキテクチャを構築できる世界を押し出しています。
今後考えられる方向性としては:
- Antigravityを**「エージェントの開発・検証・運用管理のハブ」**にする
- そこで作ったエージェントを
- Vertex AI や Google Cloud Run 上の本番環境へデプロイ
- Android やWebアプリ、企業内システムに組み込む
……といった「ローカルIDE → クラウド本番」の流れが磨かれていく可能性が高いです。
5-2. 他社ツールとの棲み分けと“共存”
GitHub は「Agent HQ」という、複数AIコーディングエージェントを一元管理するプラットフォームを発表しており、
Replit は Agent 3 強化とともに大規模な資金調達で攻勢を強めています。
その中でAntigravityは、
- Google陣営のエージェント開発ツールでありながら
- Claudeやgpt-ossなど他社モデルにも対応している
という点から、
「特定クラウドやリポジトリに縛られない“IDE側からのエージェントハブ”」
というポジションを狙っているようにも見えます。
つまり、
- GitHub中心の世界では Copilot Workspace / Agent HQ
- Replit中心の世界では Replit Agent
- Google / マルチクラウド・マルチモデル志向の世界では Antigravity
という形で、共存しながら競争する構図が当面続くと考えられます。
5-3. エンタープライズ向けのガバナンス・権限管理の強化
Replit Agentの「本番DB削除」事件や、
各社の自律エージェントの動きは、エンタープライズの慎重な姿勢を加速させています。
そのためAntigravityでも、
- 「どのエージェントがどの環境まで触れるか」
- 「Artifactsの監査ログをどう保管・共有するか」
- 「レビューなしに本番へ反映できないようにするガードレール」
といった、企業向けのガバナンス機能が必須になっていくはずです。
Google Cloud / Vertex AI 側には既に
- IAM
- 監査ログ
- セキュリティポリシー
といった基盤が揃っているので、
Antigravityとこれらがどのように統合されていくかが、今後の重要なポイントになりそうです。
6. まとめ:Antigravityとどう付き合うと良さそうか
最後に、要点だけもう一度整理しますね。
-
Google Antigravity は、Gemini 3 Pro を中核にした「エージェントファーストのIDE/開発プラットフォーム」
- Editor view(IDE風の画面)+ Manager view(マルチエージェント管制塔)
- エージェントがエディタ・ターミナル・ブラウザを自律的に操作し、Artifactsで作業内容を可視化
-
設計原則は「信頼」「自律性」「フィードバック」「自己改善」
- Artifacts(計画・タスクリスト・スクショ・録画)を通じて、
「何をやったのか」を後から人間が検証しやすい
- Artifacts(計画・タスクリスト・スクショ・録画)を通じて、
-
Cursor 2.0 や Copilot Workspace、Replit Agent と同じ「エージェント開発ツール」カテゴリだが、立ち位置が少し違う
- Cursor:VS Code寄りのUI+独自モデルComposer+マルチエージェント
- Copilot Workspace:GitHubリポジトリとPRを中心にしたAgentic環境
- Replit Agent:非エンジニア含めたアプリ自動構築に強いクラウドIDE
- Antigravity:Google製IDEだがマルチモデル対応で、ローカル環境+ブラウザ操作まで含む“透明性の高いエージェントIDE”
-
今後は「エージェント開発の標準ツール」候補として、Google Cloud / Vertex AIと一体的に進化していく可能性が高い
- エージェントの開発・検証・デプロイ・運用管理のハブへ
- エンタープライズ向けのガバナンス・権限制御との統合がカギ
実務的なアドバイスとしては、
- すでにGoogle Cloud/Geminiを触っている方
→ 一度Antigravityで小さなPoC(ミニ機能追加やテスト自動化)を試してみる価値は高いです。 - すでにCursor/Copilot/Replitを使っている方
→ いきなり乗り換える必要はなく、
「同じタスクをAntigravityでやらせるとどう違うか?」という比較実験ツールとして触ってみると、
自社に向いたエージェントスタイルが見えてくると思います。
