マーガリンは本当に体に悪い?有害性の本質は「トランス脂肪酸」と“油の質”にあります
先に結論:マーガリンの「有害性」と言われる正体
マーガリンが「体に悪い」と言われる最大の理由は、昔よく使われていた部分水素添加油脂(PHO)が生む工業由来トランス脂肪酸にあります。トランス脂肪酸は、血液中の脂質を悪化させ、心血管疾患リスクを高めることが確立したため、WHOは工業由来トランス脂肪酸の削減・排除を各国に強く求めています。
ただし、ここがとても大事なのですが、「マーガリン=必ず有害」ではありません。各国の規制や企業の改良で、トランス脂肪酸を大幅に減らした製品が増えています。日本でも「マーガリン等のトランス脂肪酸は減少傾向」とされていますし、近年の国内データでも“昔ほど高い”状況ではありません。
その一方で、トランス脂肪酸を減らす過程で、**飽和脂肪酸が多い油(例:一部のパーム系油脂)**に置き換わることがあり、今度は「トランス脂肪酸は減ったけれど、飽和脂肪酸が多い」という別の課題が出る場合もあります。つまり、マーガリンを語るときは「トランス脂肪酸だけ」でも「バターだけ」でもなく、脂肪の質と食べ方の全体像を見たほうが、結論がぶれません。
この記事は、次のような方に特に役立つ内容です。
- 小さなお子さんの朝食やおやつに「スプレッド類」を使うご家庭
- 健康診断でLDL(悪玉)や中性脂肪を指摘され、油脂を見直したい方
- 「バターは良い・マーガリンは悪い」という話の真偽を、落ち着いて整理したい方
- 食品表示を見ても判断できず、買い物の軸が欲しい方
1. そもそもマーガリンとは何か:バターとの違い
マーガリンは、一般に植物油(または植物油+動物油)を主原料として、乳化させて固形(または半固形)にした油脂食品です。バターは乳脂肪が主成分で、マーガリンは“油脂を加工してバターのように使える形にしたもの”と捉えると分かりやすいです。
ここで重要なのは、マーガリンが「植物性だから健康的」「動物性だから悪い」といった単純な分類ができない点です。健康影響を左右するのは、植物性か動物性かというよりも、主に次の要素です。
- トランス脂肪酸がどれくらい含まれるか
- 飽和脂肪酸が多いか少ないか
- 不飽和脂肪酸(オメガ3/6など)をどう取り入れているか
- 総摂取量(パンに薄く塗る程度か、揚げ物・菓子で大量か)
2. マーガリンの「有害性」で最も問題になるトランス脂肪酸
2-1. トランス脂肪酸がなぜ問題か:心臓と血管に不利
トランス脂肪酸は、血中のLDL(悪玉)を増やし、HDL(善玉)を減らす方向に働き、心臓病や脳卒中リスクを高めるとされています。これは複数の公的機関が一貫して示しているポイントで、米国心臓協会も「心疾患・脳卒中リスク増加」と説明しています。
WHOは、工業由来トランス脂肪酸が心血管疾患死亡に寄与し得ることを指摘し、各国に排除を促しています。
2-2. 「工業由来」と「天然由来」は分けて考える
トランス脂肪酸には大きく2種類あります。
- 工業由来(industrially produced):部分水素添加などの加工で生じるもの
- 天然由来:牛・羊など反すう動物の脂肪に自然に含まれるもの(乳製品や牛肉に微量)
規制の中心は、主に工業由来です。EUの規則でも「動物由来の天然トランス脂肪酸を除く」形で上限を定めています。
2-3. 「部分水素添加油脂(PHO)」が元凶になりやすい理由
マーガリンやショートニングは、昔は「常温で固める」「口どけをよくする」「酸化しにくくする」目的で、植物油を部分水素添加して固形化する方法が多く使われました。この工程で工業由来トランス脂肪酸が増えやすくなります。
米国ではPHOが人工トランス脂肪酸の主要供給源とされ、FDAはPHOを“GRAS(一般に安全と認められる)ではない”とし、製造・流通からの排除を進めました。多くの用途で2018年以降、PHOを新たに食品に加えることができなくなり、経過措置を経て市場から実質的に姿を消す方向に進みました。
3. 世界の規制:EUは上限を法律で固定、米国はPHOを排除、日本は「摂取量は低いが注意」
3-1. EU:工業由来トランス脂肪酸を「脂肪100gあたり2g」に制限
EUでは、工業由来トランス脂肪酸(動物由来を除く)について、食品中の脂肪100gあたり最大2gという上限を法的に定めています。
この方式の良い点は、消費者がラベルを読み込まなくても、そもそも市場に出回る食品のトランス脂肪酸が一定以下に抑えられることです。
3-2. 米国:PHO(部分水素添加油脂)を食品から実質排除
米国は「PHOを食品に使えない」方向で政策を進めました。FDAはPHOに関する最終決定や経過措置(流通猶予など)を示し、人工トランス脂肪酸の主要源を市場から減らす仕組みにしています。
3-3. 日本:摂取量は平均的には低いが、“偏り”には注意
日本では、行政資料として「通常の食生活では影響は小さい」とする整理があります。農林水産省は、国内調査や食品安全委員会の評価を引用し、日本人の平均的なトランス脂肪酸摂取がWHO推奨(総エネルギーの1%未満)を下回る水準であること、また“通常の食生活での影響は小さい”という結論を示しています。
一方で、厚生労働省のQ&Aでは、過去調査でマーガリン・ショートニング等に一定量のトランス脂肪酸が含まれていたこと、そしてその後の検査で「減少傾向」が見られたことが示されています。
つまり日本では、「社会全体としては低いが、食べ方が偏る人は増え得る」という立場で、**“ゼロ問題”ではなく“偏り問題”**として捉えると理解しやすいです。
4. 「今のマーガリンは安全?」に答えるための、現実的な見方
4-1. いまの論点は「トランス脂肪酸」だけでは足りない
トランス脂肪酸対策が進んだ結果、マーガリンの“主要な危険因子”は減りやすくなりました。日本でも近年、マーガリン・ファットスプレッド・ショートニングのトランス脂肪酸含有が長期的に変化してきたことを示す研究が出ています。
ここで次に出てくる論点が、飽和脂肪酸です。トランス脂肪酸を減らすために、常温で固い性質の油脂(例:一部のパーム系・ヤシ系)を増やすと、飽和脂肪酸が上がることがあります。飽和脂肪酸はLDLを上げやすいことが知られ、米国心臓協会も「飽和脂肪酸を減らし、トランス脂肪酸は避ける」方針を示しています。
ですので、マーガリンを選ぶときは「トランス脂肪酸が少ないこと」だけでなく、飽和脂肪酸が極端に多くないかも見るほうが、長期的には合理的です。
4-2. 「バターのほうが安全?」は、条件付きでしか言えない
バターは“トランス脂肪酸が工業由来ではない”という点で安心感を持たれがちですが、バターは乳脂肪由来で飽和脂肪酸が多く、食べ過ぎればLDLの上昇に寄与しやすい側面があります。
結局のところ、「バターだから安全」「マーガリンだから有害」と二択にすると、食事全体の改善から遠ざかりやすいです。大切なのは、どの油脂でも“量”と“使い方”で健康影響が変わるという視点です。
5. 実際にどう選ぶ?買い物で迷わないためのチェックリスト
ここからは、日常で使える“判断の軸”を、具体例つきでまとめます。難しい栄養学の暗記よりも、「選び方の癖」を作るほうが長続きします。
5-1. まず見るのは原材料:「部分水素添加」の有無
- 原材料に**「部分水素添加油脂」「partially hydrogenated」**があれば、工業由来トランス脂肪酸のリスクと関係が深いので、基本的には避ける判断が無難です(とくに輸入品や海外製の加工食品でチェックが効きます)。
※日本国内では対策が進んでいるものの、“ゼロではない可能性”を残す以上、ラベル確認はシンプルで強い対策になります。
5-2. 次に栄養成分表示:飽和脂肪酸の多さを見て「量」を決める
商品によっては、栄養成分表示に飽和脂肪酸が載っています。飽和脂肪酸が多いタイプは、トランス脂肪酸が少なくても「塗りすぎ」には向きません。米国心臓協会も飽和脂肪酸を控える方針を示しています。
5-3. サンプル:目的別の選び方
-
毎朝トーストに塗る(頻度が高い)
→ “トランス脂肪酸の少なさ”に加え、“飽和脂肪酸が控えめ”なものを。量は薄く。 -
料理に少量使う(野菜炒めの香りづけ程度)
→ そもそも油脂の総量が少ないなら、製品差より「使いすぎない」が効きます。 -
子どものパン・おやつに使う
→ “毎日たっぷり”が一番リスクになりやすいので、塗る量を減らし、代わりにピーナッツバター(砂糖少なめ)やチーズ、卵などで満足感を作るのが現実的です。
6. 「マーガリンをやめる」より効果が出やすい、現実的な改善
マーガリン単体に注目しすぎると、食生活の本丸(揚げ物、菓子、加糖飲料、超加工食品の頻度)を見落としがちです。トランス脂肪酸の“まとまった摂取源”は、マーガリンよりも、焼き菓子・スナック・外食系の揚げ物・菓子パンなどに潜むケースがあります(とくに海外ではPHO使用の歴史がありました)。
だからこそ、効きやすい順番はこうなります。
- まず「部分水素添加油脂」が入った加工食品を減らす(ラベルで見分ける)
- 次に、揚げ物や菓子を「頻度」から下げる
- 最後に、家庭内のスプレッド(バター・マーガリン)を“量”で調整する
この順番は、「ストレスが少ないのに健康効果が出やすい」ルートです。
7. まとめ:マーガリンの有害性は“製法の歴史”と“食べ方”で決まります
マーガリンが「有害」と言われてきた背景には、工業由来トランス脂肪酸の問題があり、これはWHOや米国心臓協会などが一貫して注意喚起してきた重要テーマです。
一方で、EUは上限規制(脂肪100gあたり2g)を法律で定め、米国はPHOを排除するなど、世界的に対策は進みました。
日本でも平均摂取量は低いという整理があり、マーガリン類のトランス脂肪酸は減少傾向が示されています。
だから今の現実的な結論は、次の通りです。
- マーガリンを“単体で悪者”にするより、まずはPHO(部分水素添加)を避ける
- 次に、飽和脂肪酸の多い油脂は使いすぎない
- そして、スプレッドは「何を塗るか」以上に、どれだけ塗るかが健康差になります
もし「今日から何をすればいい?」と聞かれたら、私はこうおすすめします。
パンに塗る量を半分にして、代わりに卵やヨーグルト、ナッツ、果物など“満足感のある食品”を足す。これが、我慢感が少ないのに、脂質の質も総量も整いやすい方法です。
参考文献・情報源
- WHO:Trans fat(ファクトシート)
- WHO:REPLACE trans fat(工業由来トランス脂肪酸排除の枠組み)
- EU:Commission Regulation (EU) 2019/649(工業由来トランス脂肪酸の上限:脂肪100gあたり2g)PDF
- FDA:Trans Fat / PHOs(部分水素添加油脂の扱い)
- FDA:Final Determination Regarding PHOs(経過措置の説明)
- 米国心臓協会(AHA):Trans Fats(LDL↑・HDL↓、心疾患リスク)
- 厚生労働省:トランス脂肪酸に関するQ&A(含有量・減少傾向など)
- 農林水産省:すぐにわかるトランス脂肪酸(日本の摂取量の整理)
- 食品安全委員会:Risk Assessment Report Trans Fatty Acids in Foods(2012、英語PDF)
- Iida Y.:日本のマーガリン等のトランス脂肪酸含有の推移(Journal of Oleo Science, 2025)
